幽斎

ザ・プレイス 運命の交差点の幽斎のレビュー・感想・評価

4.4
始まりはイタリア映画祭2018で関西は大阪ABCホール、関東は有楽町朝日ホールで上映され、当時は「ザ・プレイス」で公開。その後ミモザフィルムズでヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー。レビュー数が千の位にも満たないのが信じられない。せめて1人でも多くのフォロワーさんに観て欲しい。

Paolo Genovese監督の前作「おとなの事情」は製作会社の力不足で大きな賞は逃したが、出来の良さから多くの国でリメイクが創られ、分ってるだけで18ヶ国に上る。最も多くリメイクされた映画としてギネス世界記録に認定。この国は元来パクリが多いが「完璧な他人」、日本のソニーが製作した「おとなの事情 スマホをのぞいたら」東山紀之、常盤貴子主演は正式リメイク作品。

原案はアメリカのTVシリーズ「The Booth at the End」Christopher Kubasikの脚本でアメリカのHuluで第1シーズンJessica Landaw、第2シーズンAdam Arkinが監督、因みに父親は名優Alan Arkin。アメリカの古びたダイナーを舞台に繰り広げられるサイコ・スリラーで「男」Xander Berkeleyが願いを叶えるタスクをゲストに課す。1話23分と短く神秘的なプロットと魔法なのか悪魔なのか判別し難い、ミステリアスな展開。日本では「The Booth~欲望を喰う男」として配信された。

これを「おとなの事情」でイタリア年間興行成績2位を獲得した監督が、とても気に入り本国イタリアで、どぉーしてもリメイクしたい!と粘り強く交渉。アメリカのドラマをイタリアでリメイクするのは珍しくないが、名の知れた監督が製作して、もし大ヒットしたら「アメリカの映画監督は何やってるんだ!」と叱咤されるので、出来栄えも注目された。オーディションで選ばれた出演者は、イタリアを代表する俳優揃いで完成した本作はイタリア・アカデミー賞で7部門ノミネート、ローマ国際映画祭クロージング作品にも選ばれた。

監督のワン・シチュエーション3部作の2作目。1作目「おとなの事情」が夫婦3組と男1人の計7人に依るスマホの電話やメールを公開し合うゲームで、其々が隠していた秘密を晒さす、と言うコメディとスリラーのハイブリッドで、往年のジャッロを思い出す。バッキバキのロジックが秀逸だった前作と較べると、本作は緊張感が持続せず、其処を指摘されると聊か霞む点は否めない。寧ろスリラーと言う概念を一旦横に置いて、真っ新な状態で観て頂く方がお薦め。難点ば音楽、センシティブな展開を削ぐような鳴らした方には首を傾げた。

注目は「謎の男」を演じるValerio Mastandreaの存在感。「おとなの事情」にも出演したが、作品に合わせた軽薄な男を演じてた。本作では一転して座ってるだけなのに、男のバックグラウンドを探りたく為るセンテンスに駆られる。素性は一切明かされないが、その佇まい、居住まいが見事な吸引力と成って、言葉を口に出して語らなくても、謎の男の底知れぬ孤独を感じながら観客も惹き込む、見事なスタンス。

オリジナルのTVシリーズも傑作だが、サイコ・スリラーと言う通り、往年の「トワイライト・ゾーン」を彷彿とさせる、観客に解釈を委ねるダークな結末が多い。本作も「謎の男」がどんな人物なのか?と言う部分には踏み込まず、サイコパスやオカルトに偏らない、悩みを黙々と聞く神父の様にも見える。イタリアなので悪魔に傾倒しがちだが、男の存在は依頼者の心の反対側「合わせ鏡」にも見える。合わせ鏡をして呪文を唱えると悪魔が現れる、と言う都市伝説は有名だが、其処にコンセプトの鍵が有る。

合わせ鏡の男は、依頼人の本心を炙り出す。口から出る希望と心の底に有る願いの違いを丁寧に暗示する事で、人生には様々な選択種が有る、と悟らせる。現実でも悩んでる人に無理難題を吹っ掛けると、その人が本当に求めている「欲望」を曝け出せる。ノートに可視化する事で、具体性が生まれ求められる真理に「気付く」。オリジナルは、スリラー基調で描く事で娯楽性に導いた。本作はイタリアらしく最後には「生きる希望」と言う灯りを照らすドラマに導いた。誰かに悩みを相談し、背中を押されて歩み出す。正に地に足の着いたプロットと手放しで褒めたい。

オリジナルとの違いは「アンジェラ」の存在。透明人間の様な「合わせ鏡の男」に対して、アンジェラはエンジェルの意訳で有り、人としての温かみを持った女性として描かれる。コーヒーの数で愛情表現を計る作劇は、イタリアらしい明るさと奥床しさを表してる。ストーリーのセグメントは観客に解釈を委ねるが、2人の行く先を観客に見せる事で、最後はイタリア映画に欠かせない「大人の愛」で締め括る。2シーズン計10話のオリジナルでは男の結末は描かれないが、此方は鑑賞後に誰かに感想を語りたくなる、そんな優しさに包まれる。イタリアの一流俳優が勢揃いしただけ有り、誰も個性的で会話劇の中で際立つ俳優の存在感と、それをイメージする余白を残す監督の演出が秀逸。観た人の数だけ感想が有り得るシチュエーションを、是非体感して欲しい。日本で舞台劇でリメイクしても絶対に面白い。

監督の3部作の最後は「素晴らしき哉、人生!」をモチーフにした作品、次回作も楽しみに待ちたい。
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