ノラネコの呑んで観るシネマ

教誨師のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
4.8
これは素晴らしい!
もっと盛り上がって良い作品だ。
拘置所の教誨師をしている大杉漣が、6人の確定死刑囚と会話する。
一言も言葉を発さない者、反社会的態度を崩さない者、饒舌に身の上を語る者、それぞれに個性的な死刑囚達との交流を通して、教誨師自身の罪も見えてくる。
劇盤全く無し、数シーンを除いて、舞台はほぼ全て拘置所の教誨室という舞台劇の様な構造。
アスペクト比を生かした演出は「リバーズエッジ」が同じことをやっていたが、あちらは精神的に、こちらは物理的に閉塞していて、その分会話劇の密度は物語の進行と共に高まってゆく。
6人の死刑囚が起こした事件は、それぞれに実際の事件を思わせるもので、教誨師との会話を通して徐々に「ああ、あの事件か」と記憶を呼び起こされる。
中でも玉置玲央が演じるキャラクターは、明確に2016年に相模原の障害者施設で起こった大量殺人事件の被告人をモデルとしている。
教誨師は、独りよがりな“正義”を振りかざし、一切の贖罪の姿勢を見せないこの男と会話することで、彼の心にぽっかりと空いた“穴”を見つめる。
それは同時に、教誨師の目を通して、私たち自身が生命倫理や死刑制度について考える時間でもあるのだ。
文盲の死刑囚が、文字を教えたくれた教誨師に残したメモが、心に刺さって忘れられない。
タイトルロールを演じる大杉漣は、全てを包み込むような懐の深い見事な演技を見せる。
エグゼクティブプロデューサーも兼ねているが、間違いなく代表作となるだろう。
しかし、最後の作品が生と死を巡る本作だなんて、まるで映画の神が演出したかの様だ・・・。
個人的には、秀作揃いの今年の邦画の中でも一番好きな作品かもしれない。
これこそ口コミで広がって欲しいなあ。
名優・大杉漣への、映画ファンからの恩返しにもなると思うよ。
ブログ記事:
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