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騙し絵の牙のVisorRobotのネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

原作も読んでいた。どちらかと言えばそちらの結論の方が好みだ。Web化とブランド化の二極体制よりもメディアミックスの編集エージェントの方がリアルに感じられる。
小説では結局速水の目的はこうであった、という形で話が終わるのでその意図も伝わりやすいが映画の速水は結局何をやりたい人なのかよくわからなかった。「面白ければいいんだよ」というが面白いはすぐ廃れるからな。それは、すぐ役に立つことはすぐ役に立たなくなります文学部最高!出版に光を!的な話ではなく、そもそもエンタメ産業は虚業だという意味において。
面白さで耳目を集めれば数字がでるわけもなく、それこそ速水自身が話していた通り「たまたま」で成果の8割は決まるわけで、重要なのはたまたまのホームランと大きく外さないリスク対策だと。ようするに、会社ということだけど。
あれ?結局何が言いたいんだっけ?
──完全にWeb化するとか、隠された才能を発掘するとか、そういうのは表層に過ぎないということだった。
そういう意味で速水のカウンターとして高野の行動をもってきて、それは見事だったけれど、そのさらにカウンターというか、従来のあり方の強さみたいなものもあればよかったよなあと思う。
それにはやっぱり工藤ら小説薫風勢が敵役として力不足過ぎた。矢代を引き抜かれたところでそれほどの痛みになるとも思えず、そもそも内ゲバなので争いとして小さすぎる。
映画のルックとして一番気になったのがワイドショーの場面がコント的というか、アナウンサーもののAV出てくる偽物のニュースみたいだったこと。
出版の敵は可処分時間を奪うほかのメディアであり、なによりも今回提携を決断したWebである。だとすれば、結論は今回と同じく「食われる前に懐に入ってやる」でいいから、もう少し敵として分厚くリアリティをもって描いてほしかったところだ。
組織内の権力闘争ものとしての面白みはなかった(繰り返すが、小説薫風側が弱すぎた)ので、その分を他メディアの描写に充ててほしかったなあ。
とはいえ思ったくらいに面白かった。
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