butasu

騙し絵の牙のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

ストーリーはわかりやすく、テンポもよく、キャストも個性的。サクッとテレビドラマ感覚で見るにはちょうど良い作品。映画としての出来はまあまあ。そもそも冒頭のタクシーの運転がめちゃくちゃだった時点で嫌な予感はしていた。飛行場のシーンも酷かったね。

速水(大泉洋)と高野(松岡茉優)のダブル主役なのだが、どちらのキャラクターも描き方が中途半端で、感情移入しにくい。特に速水は大泉洋の存在感に頼るだけで、ちっとも内面が見えてこないスカスカのキャラ。観終わった今も結局どういう奴で何がしたいのかよくわからん。じゃあ高野の方はというと、確かに素朴で本が好きで一生懸命で言動は主人公っぽいのだが、あまりに空気が読めないし猪突猛進過ぎるし、簡単に言うと頭が悪そうで、こちらも肩入れしにくい。あと、大泉洋と松岡茉優の相性が悪い気がする。大泉洋は"キャラクター"的な演技をする役者だが、松岡茉優はかなりリアルで繊細な芝居をする役者である。どちらも大好きなのだが、噛み合わせとしては本当にイマイチだった。

典型的な老害の國村隼が、速水の考える通りに動きすぎてさすがに違和感。あの状況で帰らない、ボーイを見ない、ワインを褒める、あげくにアッサリ自著のコミカライズ(しかもダッサイ)を受け入れる。速水の仕組んだ小芝居のせいで会見がめちゃくちゃになるエピソードのリアリティも残念だし、その責任をとってあの傲慢な佐野史郎があっさり辞職するのにはちっとも納得できない。そこから東松(佐藤浩市)のもとについていた速水が呆気なく東松を裏切る展開にも、全然気持ちがついていかなかった。ここで急に速水を悪役っぽくして、でラストで高野が速水を裏切る展開を入れる。とにかく全ての登場人物が話の進行のためだけに動かされており、まったく"人間"として生きていない。「桐島」であれだけ群像劇を上手く描いた吉田監督の作品だとは信じたくないレベル。

ラストは高野の一人勝ちで終わっていたが、あのオチもいかがなものか。1冊3万円?それが本当に本が好きな人間の商売の仕方か?あの作者のことが好きだと言っていた女子高生はとても買えない値段だが。分厚すぎて辞書みたいで読みにくそうだし。どう考えてもあの一発だけで、その後続くとは思えない。ビジネスモデルとしてあまりにお粗末で陳腐。大体、たったの7ヶ月で出版というのが一番の問題。お前の仕事は編集じゃないのか、あの量の原稿にきちんと全部チェックを入れていたら、1年以上は絶対にかかると思うが。そもそも退職後に原稿持ち出して作者に会うって、会社に訴えられたら普通に負けそう。全体的にこの映画の世界、コンプラという概念がない感じ。

結局、速水と高野が自分たちのやりたい放題やって、一つの出版社を潰した話にしか見えない。
butasu

butasu