あばばば

翔んで埼玉のあばばばのレビュー・感想・評価

翔んで埼玉(2018年製作の映画)
3.9
おもしろい、つらい、かなしい、おもしろい、つらい、キスシーン、萌える……おもしろい……がごちゃごちゃに入り混じる状況となって参りました、翔んで埼玉。感想に困る。
関東圏を巡る勢力争い、東京さんの第二の部下は俺だ!!という矮小な争いを、死ぬほど大袈裟に取り上げた風刺テイストギャグ映画もうめちゃめちゃ「おもしろい」です。特に地元の特産品や芸能人や、東京さんからのお墨付きをもらった施設をデッキにしてデュエリストのようにカードを切っていく姿は本当に醜くて見ていられませんでした。(褒めています)
くだらないテーマを大真面目に取り扱うことでその落差におもしろさが見出されるわけですが、次第にわたしたちはラジオを聴くあの親子のようにこの世界観にのめり込んでいくんですよね。出身県で差別され(学園は埼玉最底辺のメタファーの極みですが)国連は壊滅したんか?っていうぐらい人権ない。観客はたぶんこの世界観に没入する前に一瞬は、「なんでこんなバカヒエラルキーが社会基盤レベルでまかり通ってるんだよ!」って思うし、キャラたちの東京至上な感性をニヤニヤ見てる。もうぶっちぎってアホだなってわかってるのに(都市伝説、という設定がもう一度段階フィクションにかけてだんだんとそのことを忘れてわたしたちはその枠組みの中で動く人間たちの一挙一動に目を奪われていく。最後はみんなが本気で埼玉と千葉を応援したくなってしまう。百美の成長に嬉しくなってしまう。
だけどこの都道府県同士のカースト争い、という矮小な話題がありえないほど華やかに拡大化されるから、逆に人間同士の内面が生々しく薄ら寒さも浮き上がっている感じがした。どっちが上でもいいじゃん、アホらしいなってスタンスで観ているけれど、確かになにかを馬鹿にされて一気に火がつき、栄光欲だだ漏れで虎の威を借る狐のごとく自分の周囲のものをあたかも自分のもののように振りかざす虚しさって、ちょっと心当たりがあるよね?それこそ出身地が東京とか、友人に有名人がいる、だとか。なんにもしてない腰巾着がボスを抜きに威張るようなイメージ。ジャブのような笑いを繰り出しながら、人間が一番醜くなっちゃう瞬間を絶妙な強さでえぐってくるボディーブローのような痛み、つらい。
「現在日本では出身地によって社会的に、法律的に差別されることは決してない」という前提のおかげでギャグが成り立つわけで、当然だけど前提が崩れてしまったらこういうネタは成り立たない。実際わたしたちのまわりには東京を玉座に据えた空気があるのは確かで、結構際どいカリカチュアではあると思うな……
あと百美が最後まで男女か明言されていないのはすごく好きだなと思いました
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