映画ネズミ

存在のない子供たちの映画ネズミのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0
向いている人:すべての人

 胸を締め付けられる「貧困」についての映画でした。まぎれもない名作です。

 ベイルートに暮らす少年ゼインは、ある日男を刺した罪で裁判にかけられ、「自分を生んだ罪で両親を訴える」と言い出す。時は変わり、裁判の前。両親と妹と暮らしていたが、ある日妹が11歳で男と結婚させられると知って絶望し、家出を決意。そして別の貧困街に暮らす移民ラヒルとその息子ヨナスと暮らし始めるが……。

 約2時間、すべての場面・すべてのセリフが自分の心に刺さり続ける作品でした。様々なことを諦めざるを得ない境遇にありながらも、ゼインのひたむきな生き方に心を打たれます。夜、ヨナスにカーブミラー越しに見えるテレビを見せるシーンや、物を売り歩くシーンでは涙を流してしまいました。

 ゼインの立場なら、彼のような行動をするのは当然だと思います。でも、クライマックスに明かされる両親の心の叫びを聞くと、それもまた理解できます。どちらの言い分にも、理がある。それもそのはず、これは社会制度自体の問題なのです。

 「貧困」は、あるべき社会制度からかけ離れたこと。なぜなら、貧困に生きる人々は、社会構造自体によって、人生の選択肢を限られてしまうからです。社会が、時に無意識的に設けている様々な障壁によって、望む人生が手に入らない。

 「お金が全てではない」という人もいますが、それは持てる者による詭弁でしかない。その「お金」を持たない人々の周りにあるのは、この映画に描かれているような現実なんです。だからこそ、現在のように社会が苦境にある時こそ「福祉」が何よりも必要とされるのです。

 自分の人生を選べる人が、1人でも増えるように。

 原題の「Capharnaum」は、聖書において、イエス・キリストが病にかかった人々を救った街のことらしいです。この世に神はいるのでしょうか。どうにもならない社会状況の中で、犠牲を強いられるのは常に立場の弱い人々。貧困に生きる人々であり、その子供たちです。韓国映画の『クロッシング』も、別の状況ではありますが、同じテーマを描いていたということもできるでしょう。

 ラストに訪れるささやかな幸せと、突きつけられる世界へのメッセージ。皆さんも、これを見て「福祉」について考えてみませんか? 子供の貧困が社会問題になっているこの日本に生きる私たちにも、全く無縁ではない作品です。
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