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存在のない子供たちのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

辛い。とにかく主人公ゼインを演じた少年が素晴らしく、彼の真っ直ぐさと強さに激しく心が動かされた。彼は本当にシリア難民だったというのだから胸が痛い。

たった11歳で嫁にもらわれ妊娠させられた上に死亡してしまった妹。しかも子沢山の両親は、さらに新しい子を身籠っているのだという。この夫婦が主張する「貧困の苦しみ」「子への愛」は、ゼインの上を虚しく通り過ぎていく。「無責任に子供を産むことは罪である」というゼインの主張に、一体誰が反論できるだろうか。彼が赤ん坊と二人きり、あの手この手を使って生き抜いていく様は凄まじいリアリティと迫力に満ちている。非常に辛い内容でありながら、ゼインの強さと行動力がまた「生きる」ということの重みを我々に伝えてくるのである。

最終的に赤ん坊を手放すことになるゼイン。でも、あれだけ死ぬ思いで長期間面倒を見て、しかも良かれと思って手放したわけだから、赤ん坊の母親はしっかりとゼインにお礼を言ってあげてほしかったな。本当、誰か彼をめちゃくちゃに褒めてやってくれ、彼に頑張ったねって温かい声をかけてやってくれ、と観ている間中辛くてしょうがなかった。なんなら観終わった今もまだずっと辛い。

是枝監督の「誰も知らない」を彷彿とさせる、非常にドキュメンタリーチックに演出された、貧困の中で子供たちだけで生き抜くことを余儀なくされた少年の物語。劇中ほとんど笑顔を見せなかった彼が最後に見せるぎこちない笑みに、胸が苦しくてたまらなくなるのである。
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