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存在のない子供たちのSY3KRのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0
自身もレバノンの生まれであるナディーン・ラバキ監督が、母国の悲惨極まる現状をリアルに描いたドラマ。

1本の映画を見ていてここまで自分の無力さに絶望した経験はない。主人公のゼイン少年が見るもの、体験すること、その全てがあまりにも自分の日常とかけ離れすぎていて目眩がする。しかも本作はほぼドキュメンタリーに近く、主人公を演じたゼイン・アル・ラフィーアもシリア難民の中から抜擢されている。役者の経験は全くなく、主人公の名前も彼から拝借されたものだ。

ゼインがやつれ疲れ切った顔で毎日を過ごすのを見ていると、本当に胸の締め付けられる思いがする。彼が苛立ちや憤りをぶつけるたび、同じ怒りを覚える。彼が涙を流すのを見るたび、こちらも涙を禁じ得ない。それはきっと映画がフィクションではなく、カメラの回っていないところでゼインが体験している世界そのものなのだと直感してしまうからだろう。

子どもたちは時に犯罪の駒として、時に労働力として行使されており、あまりの光景に言葉もない。だが、親だけを一方的に責める気にはなれない。身勝手な戦争に巻き込み、救いの手を差し伸べることをしなかった国にも問題がある。本作は常に「一体誰のせいなのか?」と、疑問を投げかけ続ける。

その答えもまた、ヨナスを必死に世話するゼインが教えてくれる。どんなに過酷な状況でも、何かを変えることができるとしたら、誰かを救うことができたとしたら、それは人の思いによってしか生まれない。本当に良い映画ほど、伝えたいメッセージは明確で単純だ。この映画も間違いなく、その内の1本である。

⚫︎トマトメーター
・批評家支持率:90%
・観客支持率 :93%
「非常にハードな作品だ。しかしスマートで思いやりに溢れており、最終的には人々の心を揺さぶる作品に仕上がっている」
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