にしやん

ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうたのにしやんのレビュー・感想・評価

3.7
親一人子一人の親子愛をちょっとほろ苦く描いたハートウォーミングな音楽映画や。夢が捨てきれへんオトンと将来の決断を迫られる娘がそれぞれの将来に向けての決断をするっちゅう話やな。
娘やってる女優さんどっかで見たなと思てたら、あれやん「さよなら、僕のマンハッタン」で恋人役やってた女優さんやないの。「マンハッタン」ではちょっと
印象薄い感じやったけど、本作では彼女の魅力がバッチリ出てたな。それに歌ごっつ上手いわ。ほんまもんのミュージシャンやねんな。そらそうやな。上手いはずやわ。
ストーリーは至って単純や。どこにでもおるようなオトンと娘の親離れ子離れの話に音楽をプラスしたシンプルな構成。
冒頭のレコード店のシーンが秀逸やったわ。あの短いシーンでオトンのほとんどを語ってたな。最初の掴みって大事やと思う。ある意味で最初でちゃんと客を掴めるかどうかで映画全体の印象とか出来そのもんを左右すると思うわ。そういう意味ではこの映画はちゃんとそのへんは出来てるし、最後まで楽しく観さしてもろたわ。
元ミュージシャンで全然大人になりきれへんオトンは娘とバンドをすんのが夢や。娘のほうは音楽の才能はありそうやねんけど音楽の道に進もうっちゅうんは全く無く医者を目指してニューヨークを離れ西海岸の大学に行こうとしとる。二人は全然ちゃう夢見てんねんな。シングルファーザーがどんな思いで一人娘育ててきたんかを思たら、なんか切なあなるな。わしかて全然ダメ親やけど娘おるさかいよう分かるわ。子供が巣立っていくっちゅうんは嬉しくもあり、寂しいもんやな。せやけど、わしは子供に対してこないなって欲しいっちゅうんは全くあれへんかったけど、本作の親父は妻への思いがあるから、娘に対して夢を持つんはしゃーないわな。
タイトル曲「ハーツビートラウド」が一晩で作られるシーンとかも良かったな。機材もなんか本格的やし、オトンの演奏も上手いしな。それに娘のヴォーカルもええし。それをオーバーダビングしていくんやけど、その辺りのまとめ方や演出の仕方は良かったと思うわ。音楽自体の出来もそこそこええと思う。
それぞれ別のシーンやねんけど、お互いが曲を披露して、お互いの心情を察しあうみたいなんも良かったな。この親子ってお互いに相手をちゃんと認めあっとって中々ええ親子やなあと思たわ。 
あと娘がオトンと違て結構大人やねんな。その娘がオトンにちょっと夢でも見さしたろかなっていう思いやりも嬉しかったわ。
その思いやりのライブシーン。そこそこ盛り上がんねんけど、このそこそこっちゅうところの抑制の効かせ方が何とも言えず切なかったかな。この映画の見せ場やな。ちょっと泣ける。
映画全体的には、感情移入もちゃんと出来たし、ええシーンもそこそこはあんねんけど、それほどドラマティックな展開もなくあっさりと終わってしもたって印象やな。まあそれくらいのほうが実際リアルかもしれんな。こんな小さな日常の切り取り方っちゅうんもええんかもな。ジム・ジャームッシュの「パターソン」ちょっと思い出したわ。これもアメリカ映画の一つの流れかもしれんな。
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