ポレポレ東中野にて。大変面白いドキュメンタリー。
沖縄戦と言えば岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』が有名だ。滅茶苦茶面白い戦争映画でこれで沖縄戦の概略は理解できる程密度が濃い。が、本作『沖縄スパイ戦史』はその戦いが終わってからの戦いの証言記録だ。
1945年6月23日に牛島満司令官が自決したのが表の戦争とするなら、沖縄北部ではゲリラ戦、スパイ戦が展開されていた。これが裏の戦争だ。
本作は、少年兵(14~17歳の少年が中心なのだが、小さすぎて子供にしか見えない!)を中心とした護郷隊、軍命による強制移住とマラリア地獄、スパイリストと住民虐殺の三章に分かれている。
どれも凄まじい話なのだが特に壮絶な「軍命による強制移住とマラリア地獄」について紹介したい。
ある日、波照間国民学校に「山下虎雄」先生が赴任してくる。本土からきたかっこよくて面白い先生はたちまち村の人気者になる。沖縄戦が始まると山下虎雄は豹変する。山下虎雄は偽名だったのだ。彼は軍刀を振りかざし、住民達に「西表島に移住しろ」と迫る。山下虎雄(偽名)は日本のスパイ機関、陸軍中野学校の工作員だったのだ。
島の大人たちは西表島が悪性マラリア地帯であることを知っている。そこへの移住は死ねという命令に等しい。移住は住民保護のためでなく「米軍が波照間に上陸すれば住民たちが敵の捕虜になり手先になってしまう」からだと言う。また、軍命で各家庭の牛、豚も屠殺された。これは日本兵への食料供給のためだった。
西表島に移住した住民の1/3がマラリアで亡くなった。波照間には米軍は上陸も爆撃もしなかったのに!
生き残った方たちの証言の生々しさ。「山下虎雄を殺せばよかった...」とつぶやく老人の顔。
その山下虎雄(偽名)はどうなったのか。戦後、本名酒井清に戻った彼は沖縄に三度も訪問するのだ!住民たちの怒りは収まらず三度目に二度と来ないで欲しいと絶縁状を送られる。
戦争マラリア問題を追求していた元沖縄県議は酒井清に電話インタビューをする。ひょうひょうとした彼の声には反省も謝罪もなく「島民の言う強制移住なんてなかったと断言できますよ」と答えるのであった。
どうだろう。これ。いくら何でも滅茶苦茶過ぎるし怖すぎる。赴任した人気教諭が工作員だったってあんた...しかも、胸クソ悪くなる結末。
日本軍のクズエピソードは腐るほどあるが、これは別格ではないか。インパール作戦の牟田口廉也に匹敵する。
こんな酷いことが起きたのは沖縄だからなんだろうか...と思ってると最終章でそうではなかった事が分かりまあ絶望的な気分になるのである。
戦争のドキュメンタリー映画は好きで色々観ているが、本作は編集も証言も明快で非常に面白い。ラストに欠片の救いを描写してるのも良い。
興味がある人は是非観ていただきたい。