真田ピロシキ

小さな恋のうたの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

小さな恋のうた(2019年製作の映画)
3.4
沖縄と基地。MONGOL800の楽曲をモチーフにした青春バンド映画の体を取りながら内地と沖縄に置けるその見られ方の差を映していてなかなか興味深い映画でした。これを見た理由は『彼女が好きなものは』を見て山田杏奈の過去作を見たいと呟いたら彼女が名刺代わりにしている作品として薦められたからです。

始まってしばらくはどうも低調。主人公亮多(佐野勇斗)らが部室で練習中に漏れた音からギャラリーが集まってきて、それを感じ取って注意書きの張り紙を無視して窓を開けボリュームを最大にして大パフォーマンスを繰り広げるところなどは大いに盛り上がるも、交通事故の後に記憶喪失になった亮多に対してギターの慎司(眞栄田郷敦)が色々回想するのは非常にテンポが悪い上に妙におセンチで日本映画のよろしくない例を見せられているよう。しかしこれが実は車に跳ねられたのは慎司で今までの記憶喪失はショック状態にある亮多の心の動きと明かされた時には納得した。車が来た方向が違うのにおかしいなーとは思ってたんだよね。

慎司を跳ねたのが米軍ナンバーの車だったので反基地感情が強まり周辺では抗議活動が起こる。慎司の事故現場には花と共に抗議のプラカードも添えられていて、亮多はそれを複雑な顔をして裏返す。言わんとすることは分かる。故人を勝手に自分達のイデオロギーの殉死者に仕立て上げることへの嫌悪感。基地問題に限らず人は何かしらで都合の良い犠牲者を利用していないかと、その横暴さを突っつく。しかも慎司は基地内に住むリサ(トミコクレア)とフェンス越しの交際をしていて、基地についてのスタンスは分からないが単純にこっち側かあっち側かで分けられる人でもなかった。慎司の父は息子を死なせた疑いの強い米軍基地で仕事を続けることに悩み、米兵向けのバーを経営している亮多の母も事件を受けての外出禁止令で全く客がいなくなったのを前に「こんなのはよくあったことよ。」と言うなど基地のある生活の様々な顔が見せられる。抗議デモをする人達は何とかして学祭を見に外出を試みるリサを怖がらせるなど悪者的に描かれてていて、そこは自分が反基地なのと最後までひき逃げ犯が米兵だったのか明らかにしないのがやや卑怯に思えて釈然としない部分もあるけれど、こういう見方をしてるのが沖縄と基地に決まったストーリーを抱いていることでもあるので考えさせられる。序盤でプロデビューの可能性が出て東京に行く話になった時に「行くぞ東京。いや、東京が沖縄に来い!」と叫ぶのだが、これは東京に限らない内地の人間に対してメディアを通じてではなく自分の目で本当の沖縄を見てみろよと言っているように感じる。

青春バンド映画としては卒ない作り。死んだ慎司の後釜は妹の舞(山田杏奈)が引き継ぎドラムの航太郎(森永悠希)と共に3ピースバンドとして出発。前にいたベースの大輝(鈴木仁)は学祭にどうしても出たかったので別のバンドに入ってしまったが、それでも予期せぬトラブルで学祭に出れなくなった亮多達に演奏する場を設けてやったり「抜けたの後悔してるわ」と言ったりしてて嫌な裏切り者には描かれないのが良い。下手に恋愛要素を挟まないのも良い点で舞もリサも繋ぐのは友情。その反面、教師はステレオタイプに相反する存在として描かれてて物語上で必要な存在でもないのでいいがやや陳腐。

野暮なツッコミとしては結局学祭に来れなかったリサに音楽を届ける方法で、生演奏が一番なのは分かるのだが人の家の前で爆音鳴らされたらリサにとっては良くても抗議デモでピリピリしてるその他の人達には嫌がらせに感じられそう。そもそもフェンスからは出れなくても今の時代SNSやらでいくらでも交流する方法があるはずなので、まるでこの機を逃すと二度と会えないかもしれないみたいに描かれていたのには違和感。しかも停学中の出来事で、ライブハウスでライブやるくらいはこのくらいやってこそロックだよねえと思えるがこれはかなりマズいと思えてノイズになった。店長は大人で彼らの将来を有望視してるんだからそれをぶち壊しにしないよう努力しようよ。

そんな感じの映画でしたが青春映画と沖縄映画を同時に楽しめて悪くありませんでした。モンパチも代表曲くらいは知ってるのでノレた。エンドロールではモンパチのオリジナルをバックに3人が自転車で駆け抜けててこれぞ青春映画のエモい瞬間。