TOSHI

魂のゆくえのTOSHIのレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
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これは凄い。重くて深い。ポール・シュレイダー監督の構想50年の作品という事だが、集大成的で、監督としての到達点とも言える作品だ。

ニューヨーク州の小さな教会、ファースト・リフォームドを任されているエルンスト(イーサン・ホーク)は、かつて従軍牧師だったが、イラク戦争で息子を亡くし、妻とも別れていた。
映画は、彼が一年間の区切りで日記を付け始める所から始まる。スタンダードサイズの画面が、本作が内省的な映画である事を表しており、落ち着いた品格のある映像が、本物の映画である事を確信させる。
ある時、彼は信徒メアリー(アマンダ・セイフライド)から、カナダで逮捕され保釈されたばかりの環境保護活動家である夫・マイケル(フィリップ・エッティンガー)が、世界に絶望し、生まれてくる子供の出産に反対していると相談される。翌日、マイケルと面談したエルンストは、宗教家としての立場で改心させようとし、マイケルの心が少しは動いたようだが、結論は翌日に持ち越しとなる。

(好きな映画ではなく)良い映画を追い求める事は、結果として、自分が興味が無い、或いは共感できない、様々な考え方や生き方と向かい合う事になるが、絶対的存在としての神を信じる事ができない私に取って、神を盲目的に信じる牧師というのは、共感できない存在であり、神が環境を破壊する人間を許すかどうかなどという議論は、ナンセンスに思える。しかし、シュレイダー監督が、脚本家として、監督として描いてきた、社会と相容れない異質な人間のドラマという意味では、本作も同様であり惹かれる。
エルンストは、嘔吐したり血尿が出たりと体調が悪く、不穏な音楽が流れるのが、バッドエンドを予感させる。

エルンストは、マイケルから面談の都合がつかなくなったというメールを受け取るが、大企業のようなメガチャーチである、アバンダント・ライフ教会の主任牧師・ジェファーズ(セドリック・カイルズ)を訪れ、ファースト・リフォームドの250年周年記念式典の打ち合わせをし、エスター(ヴィクトリア・ヒル)に病気ではないかと心配される。
その後、メアリーから呼び出され訪ねると、マイケルが作っていた、自爆テロのための爆弾が装着されたベストを見つけた事を知らされ、困惑しつつも自分で預かる。どうやらマイケルは環境保護のためなら過激な行動も辞さない、エコテロリストだったのだ。トラーがマイケルから呼び出され、公園に向かうとそこには…。そして教会の出資者についての秘密を知ったエルンストは、ある決意をする…。
まさかの、「タクシー・ドライバー」的な展開である。シュレイダー監督が脚本を手掛けたタクシー・ドライバーには私も心酔したが、今、冷静に考えると、あんな人殺しが少女を救ったヒーローとして称賛され、また運転手として平穏に暮らしたという結末はおかしい。しかし、映画としてはそれで良いのだろう。人殺しにも救いがあり、ささやかな幸せがもたらされるのが、映画なのだ。
大義無きイラク戦争で息子を亡くしたエルンストと、勝てる見込みもなく続けられたベトナム戦争の帰還兵であるタクシー・ドライバーのトラヴィスが、過去を乗り越えられず、孤独にさいなまされている男という意味で重なるが、結末は異なり意外な着地となる(エルンストの夢想とも取れる)。途中、突然に飛躍する、あるシーンにも驚かされた。

エルンストは、トラヴィスにはなれない。それは私のように、かつてトラヴィスに憧れながら、何も行動に移して来なかった多くの観客も同じだろう。数十年の年月を経て、そんなトラヴィスになれなかった者達への答えを突き付ける本作に、打ちのめされた。ますます社会から個人が疎外される時代に、孤独な人間の“魂のゆくえ”を問う、衝撃的な傑作である。
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