TOSHI

真実のTOSHIのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
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まさか、日本人監督によるカトリーヌ・ドヌーヴ主演作を観る事ができるとは思わなかった。しかも、ジュリエット・ビノッシュやイーサン・ホークまで出演している。是枝裕和監督の、カンヌ映画祭・パルムドール受賞の機会を利用し、トップスターを起用した、“外国映画”を撮る姿勢だけで、本作を全面的に支持したくなる。

良い映画は、風景や間を大事にするものだが、冒頭の、庭の木々を捉えた秋の風景から、優れた映画である事が、はっきりと分かる。
大女優・ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、「真実」というタイトルの自伝を出版するが、ニューヨークで暮らす、脚本家をしている娘・リュミエール(ジュリエット・ビノッシュ)とテレビ俳優である夫・ハンク(イーサン・ホーク)、その娘・シャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)が訪ねて来る。
自らを重ねたような、大女優の役柄。カトリーヌ・ドヌーヴありきの映画という意味では、彼女の従来の出演作と同様である。
母親としては何もしてこなかった、ファビエンヌとリュミエールには、確執がある。事前に原稿を見せられなかったリュミエールは、本を読み、良い母親であったかのような、事実と異なる内容に憤慨し喰ってかかるが、ファビエンヌは平然と、「事実なんて退屈よ」と言う。
更にリュミエールが許せなかったのは、慕っていた、母の友人で、若くして亡くなった女優・サラについて何も記述が無かった事だが、ファビエンヌの秘書・リュック(アラン・リボル)は、彼女はサラを忘れておらず、現在撮影中の作品に出演しているのも、サラの再来と呼ばれている新進女優・マノン(マノン・クラヴェル)が出ているからだと語る。
そのリュックも、自伝に自分が全く触れられていなかった事に、存在を否定されたと感じ、辞職する。リュミエールは、リュックに代わり、ファビエンヌの付き人を務める。

新作は、不治の病で歳を取らない宇宙で過ごす事になったマノン演じる母と、ファビエンヌ演じる娘の、見た目の若さが逆転した上での触れ合いを描いたSF映画で、撮影の過程とオフの生活が響き合う展開がスリリングだ。サラの再来と言われる事にプレッシャーを感じていた、マノンとの交流を通じて、ファビエンヌとリュミエールの関係も変わって行く…。

真実という、タイトルが良い。私はよくある、「魂を揺さぶる真実の物語」というような、コピーには白けてしまうが、映画が追求すべきなのは、ありのままの事実としての真実ではなく、嘘の積み重ね、嘘の集合体としての真実なのだ。本作は、その事に自覚的であり、タイトルがそれを表している。
家族を描いたという点では、過去の是枝監督の作品と共通する。しかし大きく異なる部分もある。「万引き家族」のように、ドキュメンタリー調で、リアルな生活を観客に覗き見させるスタイルが是枝監督の真骨頂だが、本作はフランス映画の主流である、自然の中での自然体の生活を、軽やかに描くスタイルであると感じる。つまり、自らのスタイルの“日本映画”ではなく、“フランス映画”を撮ったのだ。
外国を舞台にした、自然体の生活を描くのは難しい。その国の生活が自分の中で、血肉化されていないと、違和感に満ちた作品になってしまうだろう。是枝監督のフランスで過ごした時間がどの程度なのか、分からないが、本当に自然で感嘆する。勿論映画である以上、只、自然であるだけでなく、そこから更に浮遊・飛躍する、虚構としての自然さにまで昇華させなければいけない訳だが、その意味でも高い次元に到達している。

試みとしては、日本人監督がかつてない領域に踏み込んだ、エポックメイキングな作品だ。これを見届けなければ、映画ファンは名乗れないだろう。次は是非、日本を舞台に海外トップスターを起用した、是枝監督独自のスタイルによる映画を作って欲しいと思う。その時本当に、ガラパゴスな日本映画が、グローバル化するだろう。
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