しゅんまつもと

町田くんの世界のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

町田くんの世界(2019年製作の映画)
4.1
自分の愛する人が愛する人を果たして愛すことができるだろうか。
例えば、父親は愛する我が娘が愛した見ず知らずの男を信頼して、娘を送り出すことは出来るのだろうか。愛がゆえに、愛する対象を守りたいがゆえに、何かを憎んで、傷つけてしまうことはないだろうか。
例えば、自分の愛する人の愛の対象が自分以外に向いた時、それを受け入れていくことはできるだろうか。嫉妬し、恨んでしまうことはないだろうか。

こんなパッケージを持ちながら、盲信的な愛、無償の愛というとても複雑な事象を扱う映画である。しかし繊細な積み重ねと、ラストのダイナミックさでもってこの映画は、それでも愛を信じてみようじゃないか、という答えを導き出す。

自分が一番感情を揺さぶられたのは終盤の町田くんを猪原さんのもとに送り出すシークエンスである。好きとはなにか、愛とはなにか、という答えの出ない問いをぶつけ合った彼ら、最後まで交わることのない違うフィールドにいた彼らが、ひとつの愛のために、愛を信じて、文字通り力を合わせるのだ。暴走しかねない愛をそれでも信じて、解き放とうとするその流れに、思わずため息が漏れてしまった。陳腐と捉えられようが、これを正しいことと言わずに何が正しいのだろう。
そんな無数の愛があれば、人は空だって飛べる。何の不思議もない。困難が待つ荒波(大空)に2人はそれでも漕ぎ出していくのだ。

保健室のカーテン、取り壊しになるプールのフェンス、あらゆる隔たりを超えて恋が産まれる瞬間も細かいながら良い。
氷室くん関係のシーンはあまりにクサさにちょっと見てられないと思いつつも、まぁ愛嬌かな。
愛の対極として、芸能人の炎上やスマホに没頭する人を描くのはちょっと苦手だと思った。なんというか、悪意をそれで描くのは単純化しすぎじゃない?と思ってしまう。