このレビューはネタバレを含みます
ラジオで町山智浩さんの紹介を聴いてとても観たかった作品。
『恋愛物語』として観ると全く共感出来ない点だらけだし、ハッキリ言ってただひたすらフラストレーションが溜まる話。
だが、町山さんの解釈に従って『マモル』という存在そのものを『好きなもの』のメタファーとして考えるととても奥深い”寓話“と捉えることが出来る。
『好きなもの』(『憧れるもの』と言い換えてもいい)を追い求める者は決して見返りなんて求めない。
ただひたすらそのものに近づきたい、そうなりたいという、ある種一方的な”想い“があるだけだ。
そう考えると、最後にテルコが呟く「わたしは未だに”田中マモル“ではない」というセリフはとても象徴的。
ラストシーンで彼女がゾウの飼育員になっているのは、何があっても『マモル』という存在に近づきたいという気持ちの現れなのだろう。
『好きなもの』とは、その人にとっては素晴らしく、美しいものに写る。
角田光代の原作によると、マモルは大して格好良くもない、冴えない男として描写されているらしい。
映画版のマモル役を成田凌というイケメンが演じているのは、「テルコの目から見たマモルは成田凌の様なイケメン」ということなのかなと思う。
逆にマモルが憧れるスミレというキャラクターを観客が誰も羨まない女(失礼!)にしている所も面白い。
マモルにとってはスミレは『イケてる女子』なのだ。
テルコという、とても難しい役回りを演じた岸井ゆきのの演技は飛び抜けて素晴らしかった。
(特にあのラップ)
そして、“もう一人のテルコ“仲原役である若葉竜也の溢れ出しそうな感情を湛えた演技も印象的だった。
ミニシアター系ながら口コミで上映館が増えていったのも納得な作品。