一人旅

人生に乾杯!の一人旅のレビュー・感想・評価

人生に乾杯!(2007年製作の映画)
5.0
ガーボル・ロホニ監督作。

金に困って強盗を働いた老夫婦の逃避行を描いたクライムコメディ。

中欧ハンガリー発ミニシアター系映画の良作。集合住宅で年金暮らしをしている81歳の夫:エミルと70歳の妻:ヘディが、経済的困窮を理由に郵便局や銀行を狙った強盗を繰り返しながら逃亡を続けていく様子を描いた犯罪コメディで、『ボニーとクライド/俺たちに明日はない』(67)の老人版とも云える作品になっています。

夫の現在の愛車が58年製のチャイカ(共産党員の公用車)であったり、夫婦の馴れ初めエピソードを共産主義時代の弾圧と絡めて回想するなど、かつてソ連の共産主義圏であったハンガリー社会の過去の痕跡と現在の疲弊した実情を背景に据えながら、人を傷つけずに金だけ奪って逃避行する老夫婦の道中を、彼らの行方を追う元恋人同士の男女警官との関係性を絡めて映し出しています。

“社会に見放された高齢者の怒りとプライド”が炸裂する、表向きはほのぼのタッチ(慣れない強盗行為&逃亡生活に悪戦苦闘する様子がユーモラス)…しかし裏では闘志漲るパワフルな一篇で、共産主義という暗黒の時代を生き抜いた老夫婦だからこその“恐いものなし”な生き様が、ご高齢者だけでなく草食系が主流となった現代の若者達に勇気と活力を与えてくれる気合十分な作品になっています。

蛇足)
クライマックスは『バニシング・ポイント』(71)へのハンガリー流オマージュ。本作はアメリカン・ニューシネマをお手本にしています。
一人旅

一人旅