終始、男のドアップが続くし、舞台は爺さんだらけの殺風景な事務室のみ。商業映画としては、とにかく華が無い事この上ない。しかも、主人公があんまりイイ奴じゃなく、イラつくと直ぐ周囲のモノに当たる、いわゆる一緒に仕事したくないタイプ。第１印象は最悪だった。
しかし、彼のスタンドプレーを追体験するうちに、ストーリーは大きくドライブする。とくに、中盤で明らかになる「とある事実」から映画の潮目が変わるのだけど、その見せ方が素晴らしい。噛み合っていたはずの会話が徐々にズレていき、今まで電話越しに見えていた風景が一変した瞬間は、久々に電気が走った。
そこからは、主人公の内面に迫る展開になるが、さっきまであんなに悪びれていたヤツが少し改心しただけで劇的に愛着が湧いてしまう金八的なアレにより、途中からは全身全霊で応援したくなってくる。観客賞総ナメ、の惹句は伊達ではなかった。
終盤、少し説明的になり過ぎた感はあったけど、寧ろこの映画らしい無骨さとも取れる。ラストシーンは、全てを受け入れた彼の心を投影しており、この映画に初めて華が咲いた。
