ガンビー教授

斬、のガンビー教授のレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
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幕開け直後の、燃え盛る火にあてられて焼けた鉄が形を変えながら人斬りの道具へ変わっていく映像は、不安定かつ異様なエネルギーをもってこちらに迫り、「鉄男」でデビューしたこの映画監督の一貫性を印象付ける。そして一面に広がる緑のなかで人を傷付け、自分も傷を負いながら彷徨う人間の姿を見ると、これは「野火」を経たからこそスクリーンに広がった景色だと感じられる。

序盤に二人の侍によるゆえんも分からない果し合いというシークエンスが設けられている。これは新たに登場したキャラクターの強さを示すための、それだけでは時代劇の定番のようなくだりに過ぎない。そしてその片方は我々の良く見知った塚本監督のあの顔なのだから、どちらが勝つのかは目に見えている。あとはどうやって決着がつくか、ということなのだが……この果たし合いの結果は我々の予想を外れた意外な形で示される。その演出にやや意表を突かれながら、いかにも塚本監督らしい見せ方だな、やはりこれは塚本晋也の映画なのだ、と嬉しくなってしまう。

この作品は、時代劇と聞いて我々がすぐ持ち出しがちな紋切り型やノスタルジアなどからは遠く、情動の発露を、斬り合いという究極的にドラスティックな形へ昇華するためにこそ時代劇というフォーマットがある(キャラクターを現代の若者の姿に重ね合わせて受け止められるようにするため、池松壮亮と蒼井優というキャスティングは周到に選ばれている)。これはやはり純度100%の塚本晋也映画の一作であり、この映画が迎える不安定な幕切れは、緩やかながら連綿とつながっているこの映画監督の映像がどこへ向かおうとしているのか、ということについてまた新たな興味を観客に抱かせることになる。

塚本晋也監督、今作では極めて不穏な存在を演じている。むしろヒーロー的扱いを受けても良さそうな立ち位置であり、監督ご本人いわく脚本段階ではそこまで悪い人間というつもりで書いたわけではないそうなのだが、底知れぬ恐ろしさを纏っているし、この物語のすべての元凶にも思える。この男は外から現れた存在で、「江戸」「ご公儀」といった外側の言葉を口にしながら遠い場所で起きているらしい動乱のことについて語ったりもするが、その外側はあくまで外側としてまったく我々の目に触れないため、かえって嫌なリアリティを醸し出している。「野火」そして現在の我々にもつながるきな臭さと言うべきだろうか。

刀の音が良い。重みを感じさせる音響にこだわったらしい。

塚本監督演じる澤村が人を斬るときの作法がめちゃくちゃ嫌な殺し方で笑ってしまった。

「斬、」もそうなのだけど、最近、面白い映画のためにはそれほど多くの人間が必要なわけではないよな、という実感が深まりつつある。

果し合いには、やはり目撃者が必要である。
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