dita

斬、のditaのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.5
@シネ・リーブル梅田(1回目) 2018.12.4   

今年の邦画ベスト。時代劇の皮を被った現代劇という印象とともに『七人の侍』を思い出した。心根が優しいから、相手が憎いから、本能として、本当にそうだろうか。

会社に「殺すぞ」とか「死ね」が口癖の人がいて、面と向かって言うわけではないし、単に「こいつ嫌い」くらいの意味なのはわかっているけどどうしても辛くて、「そのことばを聞くととても傷付くので、わたしの前では言わないでほしい」と言ったことがある。それからは一応気を遣ってくれているようでそういうことばはあまり聞かなくなったけど、やっぱり命にかかわる物事や言動に対して人間はもっと慎重になるべきだし、傷付ける自覚を持つべきだと思う。刀は無くとも簡単に人を斬れる現代だからこそ「斬る」ことへの疑問と逡巡をわたしは持ち続けたい。

澤村が言う「些細なこと」と「これからやろうとしている大きなこと」が「死」という事実の前では何の差もないということ。
ゆうが言う「死ぬんですか?」と「敵を取ってください」の矛盾。
杢之進が言う「人を斬れるようになりたい」ということば。
彼らが彷徨った先にあるものを考えることがこの作品を観た者の責任だと思った。

俳優陣の色気と垣間見える本能、何より音が表す人間の心情がぐいぐい来てずっと緊張していたので体感時間は30分くらい。終わって暫く動きたくないくらい濃密な80分。今だからこそ費やすべき80分だった。

あと、オープニングは近年観た映画の中でベストオブザベスト。最高。


@塚口サンサン劇場(2回目) 2018.12.23   

刀の柄がギリギリと鳴るのは人が持つ最後の理性の音だ。人を斬ると人が死ぬ。「斬」は”killing”である。この単純な原理を怖いと思えなくなったら人は、世界は狂う。死ぬということ、斬るということを綺麗ごとで片付けてはいけないと強く訴える映画だと改めて思う。

あと、この映画は役者の顔がとても良い。造形が良いではなく、それぞれの死に対する思考がとてもよく表れているのが良い。澤村の顔がだんだん人のそれではなくなっていくことに恐怖を覚えた。何度も言うけど、斬ると死ぬ。この当たり前の事実を絶対に忘れないでおこうと自身に誓う。

@シアターセブン(3、回目) 2019.2.4   

最前列で観たけどシアターセブンの音はやっぱり良いな。澤村の行動や言動に改めて「戦争」を感じる。目の前に戦争が現れたら自分はどう思い何をするか、たくさんの引っ掛かりと考えるきっかけをくれる。この映画を観て怖いと感じる人で居続けたい。
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