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ザ・ファブルのKeithKHのレビュー・感想・評価

ザ・ファブル(2019年製作の映画)
3.7
『ザ・ファブル』 (2019年)

週刊ヤングマガジンに2014年から連載され、単行本が18巻発刊されている人気コミックの実写映画化で、今最も油が乗っている役者である岡田准一を始めとした安田顕、柳楽優弥、向井理、福士蒼汰、木村文乃、山本美月、佐藤次朗、佐藤浩市等の個性的な共演陣の度外れた演技によって大ヒット中の作品です。

アクション・コメディと謳っていますが、大阪が舞台になっていることもあり、彼の吉本新喜劇が過剰にバイオレンスでシーズニングされた、漫画の世界をそのまま映画にしてしまった、ある意味でストリート・ファイター・ゲームのスラプスティックコメディー風VR作品といえるでしょう。

ヤクザの裏社会がドラマの舞台になっており、その為にその筋めいた大阪弁の暴力的で乱暴な言動が飛び交いますが、出演者や設えは皆清潔で薄汚れてはおらず、そのせいもあってか芯から野蛮な獣性は感じられず、また恐怖感を掻き立てられることもなく、どこか剽軽さを漂わせながら殊更に大袈裟に羽目を外した感がしており、その点でも将に吉本新喜劇の変形といえます。
背筋が凍るような凄味ある威圧感、現れるだけで観衆に言い知れぬ恐怖と不安を齎す圧倒的存在感、いかにも狡猾で憎々しく湧き立たせる嫌悪感等を抱かせるようなキャラクター、例えば任侠映画の安部徹や天津敏、実録ヤクザ映画の成田三樹夫や小池朝雄、極妻シリーズの中条きよしや中尾彬といった怖い役柄は出て来ず、その面でもマンガ感覚でその筋の世界の仮想現実を楽しめられます。後半での主人公が秒刻みで危機に陥る目まぐるしい場面展開では、大いに手に汗握らせてもくれます。

悪党からの理不尽で言われなき迫害、虐待、苛斂誅求という挑発を受け続け、それでも辛抱し我慢し耐えに耐えた末に、悪党がヒロインを拐かすという一線を越えた所で、遂に堪忍袋の緒が切れて出入り、殴り込みに、その耐えに耐えた後のレバレッジによるエネルギーの爆発的発散、憤怒に燃えて悪党どもを一人一人討伐していく、その颯爽たる姿によるカタルシスが観客に陶酔感とエクスタシーを与えるというのが、本作のフレームワークです。
このパターンこそ、実は映画が始まって以来のお馴染みの勧善懲悪の定番パターンであり、半世紀強以前に映画界を席巻していた東映任侠映画の類型です。その典型的スターであった高倉健と池部良の着流しの道行き姿を岡田准一と木村文乃の黒ずくめの殺人者コンビに重ね合わせるのはあまりに飛躍があり過ぎますが、本作は、漫画チックに極端にデフォルメされたとはいえ、将に東映任侠映画路線の延長上にある作品だ、というのが私の率直な印象です。
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