こなぱんだ

さよならくちびるのこなぱんだのレビュー・感想・評価

さよならくちびる(2019年製作の映画)
3.8
これ以上にない程説明を徹底排除し、とにかく「映画」とはを突き詰めた映画。非常に面白かったです。監督はチーム立教の塩田監督。さすがでした。塩田監督にしても黒沢清にしても思うのは、予告編のクソダセーミスリードが激しすぎませんか??私は友人に勧められなかったら恐らく出会うことの無いだろう映画でした。

お願いだからクソつまんなそうな予告編やめてくれ。

内容は、無いです!!!!!とにかく、一言で言えば「いかにして「映画」というシステムを利用して「虚無」を作り出せるのか」というところだと思うので、内容なんか本当にどうでもいい。

ただ、その作り込まれ方が本当に凄まじく、最後までがんばって観ると「すげえ」
という気持ちにしかなりません。

恐らく、「敢えて」サブカルのフォークバンドというテーマを掲げて、いわゆる「青春もの」のようなていを装っているのですが、とんでもないです、これが。

正直、内容的には解散を決めた(なぜ解散するのかは言及されません)バンドが、マネージャーのような立ち位置の男と3人で解散を隠しながら全国ツアーをするだけの話。その中で、デュオの2人の出会いや恋愛的なよくわからんゴタゴタがあったりなどするのですが、これだけ薄い内容を120分くらいやるわけです。なので、途中で、「マジで??」という気持ちになります。私はなりました。

ただ、面白いカットがそこここに入ってくるので「おお」と思いながら結局見てしまう。この、人間関係のゴタゴタが基本中心なんですが、「マジでどうでもいい(褒めてます)」。

というのは、最初にハルレオ2人が車に乗り込むシーンから始まって、全編を通して鬼のような「反復」カットがあります。あっ、また反復だ、あっ、また反復だ、それを追っているうちに本当に人間関係の話なんてマジでどうでもよくなる。しかも、終わらないし。そのゴタゴタ。この、ゴタゴタはマジでいつまで続くの??という観客に生じる「虚無感」、これこそがこの映画の全てです。

ゴタゴタ本当にどうでもいいんですが、それをめちゃくちゃ丁寧に撮ってるんですよ。しかもたまにすごい美しい構図とかで。それを繰り返すわけです。レオもひたすら酒と男を繰り返すし、シマもハルレオを行ったり来たり、ハルもうじうじうじうじ。ひたすらに繰り返す。

最後、解散ライブをして、「もう終わりだな」となってファーストシーンのアパートの近くに帰ってきます。同じところに車を止めて(またもや反復)。

2人とも同時に車から降り、カメラは今度は車を後ろから映しながら車に近寄っていく(この時点で私達は何かあるな、と思いますよね)

すると、ハルレオが車を降りた時と全く同じ動きでまた車に乗る。そして車は走り出し、また旅の時と同じ構図のカットで車のフロントから3人を映し、2人が歌い始めてブラックアウト。これで終わりです。

なので、3人はまたこの映画を繰り返すわけです。絶対にまたゴタゴタをやるわけだし、ひたすら車でどっか行っては歌って、ゴタゴタをして、を繰り返す。永遠。
ハルレオが最後に歌う歌の歌詞にもたしかあったけど、「このなんでもないような激しい日常はいつまで続くの」(たしかこんなような)という言葉がこの映画の全てです。

3人はまたゴタゴタをして(しかもそれぞれ苦しいみたいな描写があったんで、実際苦しいのだろう)、それを永遠に続けなければならない。完全な「虚無」ですよ……
この映画の110分くらいは「虚無」を作り出すためにあったわけで、そのことがただひたすらに「すごい」としか言い様がない。

そしてそれを作り出している「映画」のシステム(ここではカット割り、構成その他もろもろを指します)が「人間模様などどうでもいい!!虚無だ!!」と言っているようで本当にいち個人的な感情としては「映画」というものにほれぼれしてしまうんですな……。

あ、ただ、おそらく「敢えて」あいみょんとかに作詞作曲依頼したのだろうけど、歌詞のついている曲は全てダメでした。全くいい曲と思えない。後から考えれば、「だから」「虚無感」を増しているとも思えるのですが。


内容なんか、全てわかんなくていいし、ハルレオがどうして解散するのかとか、ハルはどうしてレオを誘ったのかとか、マジでどうでもいいんです。だって、私たちの過ごしている日常だってそうでしょ。
こなぱんだ

こなぱんだ