にしやん

凪待ちのにしやんのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
3.3
「3・11」で被災した宮城県石巻を舞台に、人生につまずき落ちぶれてしもた男の喪失と、再生に至るまでの道のりを描いたヒューマンドラマや。
今回の作品で大きく取り扱われている問題は「ギャンブル依存症」や。競馬、競輪、競艇等の公営ギャンブルからパチンコ含めて、日本全国で約300万人おるとされてんねん。最近の洋画では「ビューティフル・ボーイ」や「ベン・イズ・バック」で「薬物依存症」が取り扱われてたけど、邦画ではとうとう 「ギャンブル依存症」ときたか。「貧困」に続いて「依存症」もそろそろ流行りになるんやろか?
この映画のポスターやら、予告編は完全にミスリードやな。ポスターのキャッチコピーは「誰が殺したのか?なぜ殺したのか?」になってるから、最初わしてっきりサスペンスもんやと思たわ。観てみてたすぐに思たことはサスペンスもんとしては非常に弱いということ。犯人捜しについては全くと言っていいほど描かれてへんし、途中で事件のことさえ忘れてしもたわ。せやからサスペンスもんを期待して観に来た人等は完全肩透かしやな。
この映画の最大の特徴は「ギャンブル依存症」の恐ろしい実態を非常に丁寧に描いてるということや。映画の出来不出来の評価はちょっと置いといて、この点については確かに評価できるわ。今回取り上げられた「ギャンブル」は「競輪」や。主人公が内縁の妻とその子供と一緒に公営ギャンブの盛んな川崎から宮城県の石巻に移り住んでいくんねんけど、石巻には競輪場あれへんさかい競輪止められると思たら大間違いや。いわゆる「ノミ屋」が街の歓楽街みたいなとこに白昼堂々と営業してんねん。で、映画ではその「ノミ屋」には完全に〇社会勢力がバックについとったわ。これって大問題やろ。世の中〇社の宴会に営業掛けてた芸人を叩くんもええけど、まず「ノミ屋」を取り締まらんかい!それに「競輪」はいわゆる公営ギャンブルというやつで、国や自治体が事業としてやってんねんで。国や自治体がギャンブルやってること自体がおかしいということもあるけど、「公営ギャンブル」に寄生する「ノミ屋」がほんまに〇社の資金源になってるんやとしたら、国や自治体が、回り回って結果として〇社を助けてることになれへんか?「ノミ屋」の根絶を当たり前として、公営ギャンブルそのものの存廃のそろそろ議論せなあかんと思うわ。
「ギャンブル依存症」 の実態はほんまに悲惨なもんや。香取が演じる主人公は完全にクズやな。内縁の嫁はん殺され、仕事も失い、酒に明け暮れて街では喧嘩三昧。これだけでも充分どん底やけど、その上に「ギャンブル依存症」もどんどんエスカレート。退職金はもちろん、貯金、嫁はんのヘソクリまで手ぇ出して、挙句果てには高利貸しから雪だるま式の借金や。殆ど廃人同然やんか。これが「ギャンブル依存症」の実態やとしたら、めちゃめちゃ罪深いで。薬物依存症と比べてギャンブル依存症が深刻なんは、とにかくお金が無くなる、大借金をするとこや。仕事がない人間が借金してギャンブル続けたらいったいどうなんの?迷惑どころやないで。犯罪に直結するわ。もし映画で描かれてることがほんまやとしたら、それ放置してるってほんまどういうつもりなんやろ。こんなん個々の家族の愛やら努力で解決する問題やないで。社会としての責任が極めて重大やと思うわ。しかしながら、その辺がこの映画は弱い。矛先がノミ屋にしか向いてへんとこが、話のスケールとして小さいな。
次にこの映画のもう一つの大きな特徴は「ポスト・震災」映画の一つの在り方を提示してるっちゅうことや。メインのストーリーに震災が直接絡んでくる訳やないけど、風景やとか、そこに住んでる人等のちょっとした会話とかにも未だに震災が影を落としてるわ。わしがいっちゃん感じた震災の影は、震災で生き残った人等の抱える自責の念やな。あの時ああしてたらとか、こうしてたら、あの人は助かってたんとちゃうか?っちゅう自分を責める気持ち。特に肉親を亡くした人はほんまに辛いと思うわ。この映画、震災で生き残った人等の抱える自責の念に対してちゃんと向き合おうとしてる点は評価できると思う。それとは全く別にこの映画での事件に対して、主人公や娘は形や内容は違えどそれぞれ自責の念に苛まれてるし、主人公にはギャンブルやらアルコールやらでやらかしたもんへの自責の念かてあるやろ。震災で生き残った人等と主人公と娘のそれぞれの自責の気持ちが対比されるとともに、それぞれが呼応し、共鳴し合ってる様を、この映画は描こうとしてるんかな。
タイトルの「凪待ち」についてや。震災、殺人事件、ギャンブルそれぞれの抱える自責の念、みんながそれぞれ抱える辛いもんをどないしてったらええかということやろけど、それは時間がゆっくりと解決するんを待つしかないんとちゃう?ってことかな。8年経っても震災はまだ終わってへんねんな。それが、彼らにとっての「凪待ち」なんかな?どやろ?


 
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