真田ピロシキ

アルキメデスの大戦の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.6
臭いお涙頂戴満載で百田尚樹の専属監督な山崎貴が撮る第二次世界大戦映画。この時点でヤバい香りしかしないのだが、これはいつもの山崎とは違うという話を聞いてて、主役が高橋一生と並んで魅力を覚える男性俳優の菅田将暉なので見た。映画が始まり映し出されるのは空からの攻撃に為すすべのない戦艦大和。全く撃ち落とせないまま銃座についていた味方が蜂の巣にされ、ようやく1機落とせても敵パイロットは救助されているのに対してこちらは何の助けもない絶望。赤く染まった海水が絶望感を高めていき、大和は遂に大きく傾いて乗組員ごと海の藻屑となる。CGは作り物めいていると感じたが、死ぬ際にわざとらしい絶叫演技もなくて無常感が伝わり掴みは良い。

本編は12年遡って海軍の新型艦を巡る大型戦艦と空母のコンペ。と言ってもほとんど出来レースで決定権を持つ大角大臣が戦艦派で、山本五十六(舘ひろし)の唱える航空戦力の重要性は顧みられず、果てには戦艦の持つ美しさを説かれる。日本軍はアホだから有り得そうな話だ。その状況を打開するには低すぎるとしか思えない予算の見積もりを暴くしかないと考えて、偶然料亭で出会った天才数学者 櫂(菅田将暉)に白羽の矢を立てる。軍人嫌いで日本に見切りをつけていた櫂だったが、このままでは戦争が始まるという山本の言葉には心を動かされてアメリカ行きの船を降りて、嫌々ながらも少佐の階級と補佐に田中少尉(柄本佑)を与えられて調査に乗り出す。

その中で描かれるのは統計不正やモリカケのような癒着、果ては居直りと昨今の自民党政権のあれやこれやを思い出させるばかり。これを百田尚樹専属の山崎貴が描いているのだから驚き。百田と同じ思想ではなくてあくまで仕事としてやってるんですかね。また櫂が戦艦の美しさを認めながらも、「巨大で美しい戦艦ができれば(戦争しても勝てると)勘違いする者が出てくる」と呟いて、美しさのプロパガンダ、ミリタリー趣味の危うさを現代に投げかける。戦争映画もそういう性質を含んでいるので本作は自覚的であると思える。悪役である卑怯な戦艦派に対して空母派は理性的に見えるが、彼らも結局はろくでもないと描いているのは戦争自体にNOを言おうとしている。でも戦艦建設を阻止したところで日本は戦争して上手く負けることもできないから、敢えて日本人の象徴として更なる巨大戦艦大和を作って沈めさせて戦意を殺ごうという話はバカらしくなったよ。ガンダムの話かよ。国家のために大和の乗組員を捨て石にするのは特攻と変わらなくて、その苦渋の決断に酔いしれるような櫂にはガッカリ。大和が沈んだくらいで全然終わりはしなかったのは知っての通りだし、これで結構白けたなあ。

良かったのは櫂に嫌々ながら従っていた田中少尉が徐々に櫂に惚れ込んで奮闘するブロマンス劇。それに比べると櫂がかつて家庭教師をしていた財閥令嬢 鏡子の存在は女性キャラのノルマのために用意されたようで、大阪まで助っ人に駆けつけたのは父親が許可するとは思えないので違和感があった。彼女が戦火に見舞われることを想像して櫂が決意しただけで良かったように思う。