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アルキメデスの大戦のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

よくある"邦画大作"かと舐めていたのだが、普通に面白かった。

菅田将暉は相変わらず上手いが、とにかく田中泯が素晴らしすぎる。演技というか、佇まいが唯一無二。終盤で急に圧倒的な存在感を示し、ラストではほとんど主人公かのような説得力。主人公の相棒となる柄本佑も良かった。

余計なアクションやメロドラマに時間を割かなかった事が本当に素晴らしい。とにかく「正しい見積もりを作成する」の一点のみで話が進んでいくため、集中力が持続する。正直、映画として出来が良いかと言われると、残念ながら手放しで褒めることはできない。劇伴の使い方は下品だし、セリフは説明的でわざとらしいし、演出にもまるで工夫が見られない。しかしとにかくストーリーが面白く、先が気になる展開が続くため、観ていてワクワクし飽きることがなかった。

ただ、さすがにリアリティの無さはいかんともしがたい。そりゃここまで大掛かりで無茶苦茶な設定のフィクションなのだから、リアリティ云々を指摘するのは野暮というのもわかる。しかし、さすがにさすがに変数が"鉄の総量"の一つしかない式のみで、億近くかかる過去の戦艦の建造費を10000円単位で当てるというのはやり過ぎ。ざっくりした一番上の桁(百歩譲って2桁)くらいまで当てるだけでも十分すごいし、それくらいにしておけば良かったのでは。あそこまでやられると、「ありえない」という気持ちのほうが勝ち、盛り上がっていた気持ちも萎えてしまう。そもそも鋼材費も年によって大きく変動するだろうし、受注先によっても全然人件費や工事費は違うだろうし、大体、普段から他の受注と合わせて誤魔化す的なズルを度々していたと劇中で指摘されているのだから、どう考えてもあんな計算が合うわけ無いんだよなぁ。

あと細かいことだが、時間がなく切羽詰まった状況なのに、大阪への移動中とか社長の出待ちをしているときとか、何もしないでぼーっとしているのにもイラッとした。

しかしそれでも、ラストの展開は本当に最高。自分で図面を作成するうちに実際に完成したこの戦艦を見てみたくなってしまった…という主人公の葛藤の時点で「なるほどこうくるか!」という感じだったのだが、そこからの「日本人に負けを認めさせるための、沈むわけがないと思わせる美しく巨大な戦艦」「日本そのもの、日本の依代としての戦艦大和」という発想。それを伝える田中泯と、受ける菅田将暉。この展開には思わず唸ってしまった。

観終わった後、すぐに冒頭の戦艦大和が沈没するシーンを改めて鑑賞し、映画の開始時とは全然違った感情を抱いた。素晴らしいオチ。冒頭のシーンはCGもしっかりと作られており、安っぽくなくてとても良かったなぁ。アメリカの戦闘機をようやく撃墜してやったやったと喜んでいたら、その乗組員があっさり別の敵機に救出されていく様子をあえて見せるシーンも好き。映画を通してのテーマである、「日本の愚かさ」を象徴する名シーンだと思う。巨大すぎるからこその転覆したときの犠牲の多さも、映像でしっかりと見せていて説得力がすごい。
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