にしやん

アルキメデスの大戦のにしやんのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.3
帝国海軍という巨大な権力に立ち向かい、戦艦大和の建造を阻止しようと奔走した若き数学者の話や。 正直、監督が監督だけに(ファンの方スミマセン!)全く期待してへんかった。それでも、思ったよりかはエンタメとしてはまあまあやったかな。

まず冒頭の戦艦大和沈没のシーンやけど、邦画にしては相当お金掛けててそこそこ迫力あるし、見ごたえあった。映画の予算の殆どを冒頭の数分間に掛けたんとちゃうかな。その後は派手な戦闘シーン一切なしで殆どが屋内シーンや。最初にガツンとド派手な戦闘シーンをぶつけといたら、その後屋内で低予算で作ったかて、あんまり気になれへんもんな。まず、予算の使い方がうまいわ。

それだけやない。冒頭に沈没のシーンを持ってきたことは、ストーリーの構成としても成功してるわ。そもそもこの映画は数学で「大和」作るんを阻止しようとした話やろ。その話が始まる前に、既に「大和」が作られてて、ほんでアメリカに沈没させられたという事実を先に観せてしもてる。普通は映画観てるもんは「主人公最後勝つんやろ」とどっかで思てたりすんねんけど、この映画は簡単にそうとは思わせへんように、「ひょっとして主人公負けるんか?」ということをわざわざ強く印象付けとる。それによって観てるもんが「この映画どんな着地すんのやろ?」​ってことを色々と考えたり、迷ったり、逆に先の読めへん状態で映画を観ることになるねんな。

それともひとつ、観客に「巨大戦艦よりも航空機部隊の方が絶対に強い」ということを徹底的に見せつけて、観てるもんは最初から手放しに空母を推してる主人公の側のほうが正しいという考えを植え付けられる。せやから、観てるもんは自然と主人公側を応援してまうねんけど、終盤にそれをひっくり返してくるとこはなかなか心憎いな。この冒頭にこのシーンを持ってきて観客のイメージを引き付けといた上で、それを裏切る展開やら解釈やらを用意するっちゅうんは構成として良かったんとちゃうかな。内容の良し悪しとか描き方の上手い下手は別として。

中盤はごくごく普通。特に目立った演出やとか脚色もなく、ひたすら主人公の菅田将暉の変人っぷりと柄本佑とのバディな小ネタの連続展開やけど、そんなに笑えるといわけでもなく。圧巻なんは、終盤の会議の菅田や。難しい数式(数学的にも正しいみたいや)を物凄いスピードで黒板に書き起こしながら、長セリフをまくし立てるシーンはなんかに憑りつかれてるくらいに圧倒的やったな。後半の最大のみどころやな。

終盤の二転三転の展開やけど、もうちょっと鮮やかにでけへんもんかいな。えらいモタモタしてるで。この辺はやっぱりこの監督らしい。それと映画が提示した答えについてもわし一切感銘はあれへんわ。率直に言うて「えらい勝手な屁理屈やな」と。「そんなに偉いんかい!なんぼのもんじゃい!」って突っ込み入れてもた。それにしても戦前のこの国の自意識って異常やね。

それとこの話は所詮、海軍の中のあほくさい権力闘争みたいなもんで、「数学で戦争を止める」なんていうんは我田引水が過ぎる。巨大戦艦でも空母でも結果は同じやって。どっちに転ぼうが、確実に戦争は起きたやろし、アメリカには負けてるし。短期決戦やったら勝ってたって言うんも無し。短期決戦か長期戦かを決めるはこっちだけの問題やない。相手がある話やからな。アメリカは最初から長期戦で勝つっていうんが戦略やったもんね。いずれにしたかて、これは明らかに「反戦映画」とはちゃうな。なんか戦前の日本への郷愁というか、ナルシズムというか。海軍のトップの連中の軽さとバカっぽさだけはGood。
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