TOSHI

岬の兄妹のTOSHIのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
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アメリカのメジャー作品のレヴューが続き、マイナーな作品のレヴューがしたくなった事もあり、気になって手が回っていなかった、本作を観賞した。
日本では昔から映画は、洋高邦低で(レヴューの数等を見ても、フィルマークスも同様だ)、観られていない日本映画は、本当に誰も観ていないと感じる(誰も観てないと言っても、全国で1万や2万の人は観ているのだろうが)。それは、予算の制限による小規模なスケール感や、旧態然とした、地味若しくは暗い人間ドラマに起因すると考えられるが、本作のような、知的障害者の妹の売春で生計を立てる兄妹をテーマにした、新人監督の作品など、大抵の人は観ないだろう。

港町で、知的障害者で自閉症の妹・真理子(和田光紗沙)と二人暮らしをしている、足が悪い良夫(松浦拓也)は、リストラを切っ掛けに造船所の仕事を辞めてしまい、生活に困窮する。電気さえ止められた部屋で、良夫は苛立ちから、世話のかかる真理子に暴力を加えるが、真理子が知り合った男と寝て、金を得ている事を知ると、罪の意識を持ちながらも、売春の斡旋を始める。
身体障害者の男が、知的障害者である実の妹に売春(1時間1万円)させるため、街の物影で男達に声をかけるというおぞましい展開で、しかも妹が老人や高校生相手にセックスをするシーンが真正面から描かれる。挙句の果てには繁華街で客引きをしているのをヤクザに見られ、暴行を受けた上に、妹のセックスを直視させられる。吐き気さえ感じる地獄絵図の筈だが、何故か確かな映画的興奮を感じる。こんな映画をシネコンで上映する、イオンシネマは凄い。
これ以上無い程、地を這うような惨めな生活を描いているが、画の構図、音楽等に品格があるのも印象的だ。金を得た兄妹が、家賃の支払いを迫る大家の目から逃れるために、窓を塞いでいた段ボールを一気に剥がし、部屋に光が射すシーンには、不思議な感動を覚えた。

良夫は男の相手をする真理子を見て、今まで知らなかった妹の喜びや悲しみを知るが、妹の体と心に変化が訪れる…。良夫は更に惨めに動き回るが、多様な解釈が可能なラストシーンが、余韻を残す。

寂しい港町という設定もあり、昭和時代のような雰囲気が漂うが、生活に困窮した者が売春で生計を立てるのも古くからある事だ。
山下敦弘監督やポン・ジュノ監督の助監督を務めながら、中々監督になれず、自費で本作を製作したという片山慎三監督が、こんな題材に賭けた意味を考えさせられるが、昭和のようで、これは未来の日本社会を予見していると感じる。
障害者の兄妹というのは極端な設定だが、本作は、介護・世話が必要な肉親を抱え、法やモラルを逸脱しなければ生きていけない人達が、今後益々増えて行く事を突き付けているのではないか。

本作は、力の無い作り手が得てして作りたがる、障害者をテーマにした感動ポルノとは異なる。あくまでも、金の有無が人生を決定付ける格差社会の現代に、生きていかなければ人間を描く上で、リアリティを求めて障害者を登場人物にしている迄で、その視点は冷徹だ。そして、惨めな生活を突き放して描きながら、その果てに微かな希望を感じさせるのだ。これが映画であり、これからずっとこの映画は、私の中で生き続けるだろう。

私は、「日本映画は観ない」などと平気で口にする人を映画ファンとは認めないが、日本映画を観ない自称映画ファンにこそ、この日本映画のネガティブな部分を全部引き受けた上で、突き抜けた映画を、観せてやりたいと思う。
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