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続・終物語のスプリングスのレビュー・感想・評価

続・終物語(2018年製作の映画)
4.5
物語シリーズを知らない人だとこの映画のレビューを見ても分からない部分だらけだと思うので、まずは、映画や小説全般における《キャラクター》について最近考えていることを書いていこうと思います。
物語世界におけるキャラクター。
彼らには人格というものが設定されている《一個人》であると同時に、物語を動かす《駒》としての役割を持っています。
ひとりひとりの、ひとつの《命》《意識》《意思》は、筆者によって創作され、操作されます。
彼ら彼女らを行動させるために動機を用意し、《こうあるように》というルートへと誘導する。そうやって物語は紡がれます。
が、そういった認識は間違いであるように最近は思えてきています。いや、間違いではないのですけれどね。実際に《物語を書く》という行為をしたことがある人なら分かると思うけれど、物語を動かすためにはキャラクターを操作しなければならないですから。
...ここで、物語の書き方の種類に触れておきましょう。
物語を創作する流れは、大きく分けて2パターンあります。
《あらかじめ主要なキャラクターの人物像を決めておいて、後からそのキャラクターに沿ったストーリーを考える》というもの。
と。
《ストーリーを事前に決めておいて、後からそのストーリーに合うキャラクターを配置していく》というもの。
の、2パターンです。
僕は後者のやり方しかしてこなかったけれど、最近はキャラクターが先行する物語に興味が湧いて止みません。何故かといいますと、こちらの方がよりキャラクターの行動に制限がないからです。
「それの何が違うの?」という方もいるかもしれないので解説すると...
要するに。
《ああいった展開にさせるためにこういった行動をとらせる》
から。
《こういったキャラクターだからこんな行動をして、だからああいった展開になる》
という順序の違いが生まれるのです。
「でも結局はキャラクターを操作して物語を進めるのに違いはないんじゃない?」という意見もあるかと思います。確かに、筆者の意思、意識から完全に独立してキャラクターが動く訳ではありませんからね。ですが、どちらがより現実に近い物語順序なのかと言われれば、キャラクター先行の物語で間違いありません。
僕はこのパターンの究極形がバーチャルYouTuberだと思っているのですけど(笑)、この《化物語シリーズ》も同様の“キャラクター先行の物語”だと認識しています。というのも、このシリーズは基本的にキャラクターの《言葉の殴り合い》で構成されていましてですね。これって各キャラの《こういった人間である》という軸が無いと出来ない芸当だと思うのですよ。(ここまで会話に埋め尽くされた物語だから尚更ね)

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(●前置き終了●)
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で、今作。
この映画の話に入るんですけど、この『続・終物語』って《キャラクターを中心として物語を展開してきた側》からしたら、かなり残酷なことをしてると思うんですよね。いや、優しくもあるんですけど。
ひと言でいえば《お炊き上げ映画》。
解決されたもの。
押し殺したもの。
隠れてしまったもの。
失ってしまったもの。
そうありたかったもの。
それら、キャラクターの《死んでしまった要素》を抜き出し生き返らせ、そして成仏させる。そんな物語でしたからね。いやぁ...優しくも残酷。
だってそうじゃないですか?極端に言っちゃえばこれ2度死なせるみたいなもんですからね。一度葬ったものを蘇生魔法使って生き返らせてまた殺す。みたいな。
...でも、未来に進むためには(おまけとは言いつつ)必要なステップであって。制作側の気持ちも痛いほどわかって。キャラクターへの愛着がないと出来ないことで。だからすごく切なくって。本当にしんどかったですね...。
ただ映画単体としては、やはり続編という位置付けの作品なので《知っていないと分からない》部分がどうしても出てきてしまうんですよね。終物語を知らないで観た友達は実際「よく分からんかった」って言ってましたから、単品として観た場合の評価は...どうなんだろ。割れるのかな。
凄惨な出来事・事件の起から結までを描いた傷物語。
過去の強制的な矯正を再生して清算する続・終物語。
傷物語はシリーズの第0章だったので独立した映画としても楽しめたのに対し、今作は初見さんにはいささか不親切ではあるよね。まぁシリーズを知っていても《結局は過去の解凍・回想でしかなく、おまけ止まり》な作品に見えてしまう人もいるでしょうし、この映画の評価って本当に難しいところ。

ちなみに僕は大好きです。だって分かるんですもん。こういった物語を書きたくなる気持ち。けど...やりたいけど出来ない・手を出しちゃいけない領域で、それをやってのけた(やってしまった)今作は僕からしたら冗談抜きで凄まじくって、観終えて劇場で放心しましたよ。
いやほんま、エグいことするなぁって。

こんな気持ちのいい徒労感を感じられる物語なんてそうねぇよ。
非常に、いや。非情にオススメ。
(※ここからの入門はちとキツいけどね...)