トンボのメガネ

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのトンボのメガネのレビュー・感想・評価

4.5
2016年版を見た時のような衝撃はなかったけれど、やはり凄い作品だと改めて実感した。

初見で本作を観ていたらどんな感想になっていたかは、もはや想像ができない。
それだけ前作のインパクトは凄まじかったし、本作は新しい作品として生まれ変わっていた。

時間の都合上やむなく短縮された前作には、やはり運命的なものを感じてしまう。
あんな風に自分の感情を言葉で表現することが出来ない体験は生まれて初めてだった。
とにかく情報量の多い作品なので、初見では脳が整理しきれない。そして、言葉に表現出来ない感動だけが残る。
人の痛みにかなり敏感な人でないと、全てを拾いあげるのは困難だったかもしれない。それだけ、一つ一つのキャラクターに繊細な想いが込もっている。
その代わり、注意深く拾いあげてしまったら心がパンクしてしまうのだ。
作品への誠実さと観客に対しての信頼を片渕須直監督に感じて、更に心が震えてしまうのである。

本作では、前作で抱えた謎の答えをもらったような感覚があった。更に情報量が多くなっているが、前作よりも説明やヒントも多くなっている分、頭の中で整理がしやすいかもしれない。

本作では、もう一人のヒロインである白木りんの存在がクリアになる。
前作のエンディングに、見知らぬ少女の生い立ちが美しい紅色で描かれていた。
不思議と涙が溢れた。
そうか…リンさんだったのか… またひとつ謎が解け、心が熱くなる。

リンさんの存在に苦しむすずさんを見て ああ、本当にすずさんは普通なんだなぁ…
水原さんが言っていた「普通でいてくれ」が本当の意味で理解できた気がした。
普通でいることが難しかったあの時代に、普通すぎて愛おしいすずさんの姿があった。

リンさんとすずさんの会話は間抜けすぎて、優しすぎて美しかった。まるでリンさんへの鎮魂歌のような作品だった。
今夜はこの世界の片隅で亡くなったリンさんを偲んで眠りにつきたい。