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ホテル <ノーカット完全版>のtakのレビュー・感想・評価

ホテル <ノーカット完全版>(1977年製作の映画)
2.8
コリンヌ・クレリーという女優は、あの「O嬢の物語」でブレイクしただけに露出の多い出演作がどうしても多い。「007/ムーンレイカー」でボンドガールとして抜擢されるくらいだから美貌は申し分ないのだけれど、もっと演技で注目されてよい人だと個人的には思っている。1977年にイタリアで撮られたこの映画は、コリンヌ・クレリーの官能シーンが見どころの作品なのは間違いない。しかし全編を通じてこの人妻の行動と心情をカメラはひたすら追い続けるだけに、彼女の演技をじっくりと見つめることができる作品でもある。

飛行機に乗り遅れたことで、一泊だけのつもりで泊まったホテル。隣室からふと聞こえてきたのは反政府活動をしている男性の声。部屋の境に閉められたドアがあるのだが、彼女はその上部にある隙間から隣の様子を伺う。次第に明らかになる男性の素性。単なる興味本位だったはずが気づけば男性をつけ回す彼女。活動家とのいざこざから一人泣き崩れる男性の部屋に、彼女はついに入っていく。

イタリアは、当時政治的にたいへん不安定な時代。この映画が製作された翌年にはテロ集団に元首相が殺害される事件が起こったそうだ。この映画の中でも、地下鉄に活動家たちが現れる場面や、バーに警察が押し入り、連行した女性を裸にして取り調べをする場面も出てくる。隣室の男性を慕う女が薬物に溺れる理由を説くように、みんな何かにすがりついて世の中から逃れたかった。隣室の男性は、コリンヌと抱き合うことに溺れていきながら、少しずつ弱い自分をさらけ出していく。活動のために葬ったはずの本名で呼ばれることを望み、乳房に顔を押し当ててしがみつく。そして黙ってホテルを立ち去るラストの彼女。無言のラストは、なんとも言えない無常感。

官能シーン目当てで見始めたことは否定しないけど、カメラワークがあまりにも見事で引き込まれてしまった。隣室を覗き見るわずかな隙間から、部屋の様子をぐるっと映して、立ち去る彼女を見送る長回しのワンカット。素晴らしいラストシーンだった。
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