ちゅう

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のちゅうのレビュー・感想・評価

4.5
人生の追体験。

それは思い出のように甘美であたたかくて切なくて、そして愛おしいものだった。


かなり感情が揺さぶられた。
時系列をばらばらにして関連したシーンを繋いでいるから、思い出に耽っているときのように心が動く。
笑い合って喧嘩して後悔して慰めて。
あのときの大切な感情が蘇る。


これは主人公ジョーの成長の物語でもあるし、人の幸せについての考察でもあると思う。
ジョーが語る言葉は女性を主語にしているけれど、それはたとえ男性であっても変わらない普遍的な幸せ。
自律した人間である、ということ。

結婚という世間が認める唯一の幸せに疑問を抱くのは当然のことだし、自分の考える幸せを求める自由がないことに苛立ちを覚えるのは当然のことだ。

しかし、世間が認める幸せに過剰に反発することで逆に自分の幸せからも遠退いてしまうのは皮肉だった。

彼女が弱い自分に気付けた時に全てが変わっていったように見える。
強がって弱さを見ない振りするのが自律ということではないのだと思う。
"こうありたい自分"だけでは幸せには到達できないんだと思う。


原作を読んだことがないので知らなかったのだけど、若草物語は作者の自伝的小説である。
僕は自伝的小説が好きなんだけど、多分それはそこに描かれている気持ちの強さ、偽りのなさに感銘を受けるからなんだと思う。
作家が自分の人生を脚色を加えながら書くのは自分の抱いてきた感覚、感情を再現したいからにほかならない。

今回の作品はその感覚、感情の再現がうまくいっているのではないかと思う。
シックな色合いと静的な構図が抒情的で、ジョーの気持ちに自然に同化することができる。

上質で長大な自伝的小説を読んだ後のような素晴らしい余韻に浸れた。
ちゅう

ちゅう