dita

37セカンズのditaのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
3.5
@ 大阪ステーションシティシネマ   

経験が様々な思いを超えてゆく映画だった。

きれいごとは徹底的にきれいに描くのに嘘っぽくならず、きたないことはいかにもきたなく描くのに嘘っぽいのが面白いなぁと思いつつ、これはひとえに役者の凄み、だと思う。特に、きれいごとに説得力を持たせる渡辺真起子と大東駿介のきれいごと?それがどうした、な感じが素晴らしい。主演の女性はじめ、役者が役を生きる様が物語を超えていった。

家出した者を待つ家族の辛さを身をもって知る人間としては、自分探しか自己の目覚めか知らないけれど、鳴らない電話と開かないドアを見つめ続ける時間がどれだけ長いかわかってんの?と言いたくなった。のに、「大丈夫?」のひとことがわたしの狭く汚い心を打ち砕き、その瞬間に彼女の行動は母の想いを超え、この映画はわたしの想いを超えていった。

障害を持つ方、マイノリティと呼ばれる方の映画を観るといつもわからなくなる。わたしは世間一般的にはマジョリティ側の人間で、どうしたって彼らの困難を理解できないから。それでも、彼女のあの笑顔を見た瞬間に、彼女が経験したこと、彼女が周りに経験させたこと、わたしがわからないと思っていたことも理解できない感情も全部超えていった、と思った。踏み出すこと、なんて書くと安っぽいけど、経験することが人生を切り開き、自身の世界を広げ、周りの人々たちの世界を広げていくのだと思った。

「あなた次第」の「あなた」とは、あなたでありわたしだった。さぁ、この映画を経験したわたしはどこへ向かおうか。
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