Inagaquilala

マイ・ブックショップのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

マイ・ブックショップ(2017年製作の映画)
4.0
「死ぬまでにしたい10のこと」のスペイン・バルセロナ出身の女性監督、イザベル・コイシェが、イギリスの高名な文学賞ブッカー賞を受賞したペネロピ・フィッツジェラルドの小説を映像化した作品。作品は登場人物たちのダイアログを軸にして構成されており、いまどきの激しくカットが交錯していくトレンドとは対極にある。比較的落ち着いたアングルのなかに対話する人物たちを収め、場面転換もとても落ち着いたものとなっている。ということで、登場人物たちの心の動きがしみじみと汲み取れる作品ともなっている。いわば古いかたちのスタイルなのだろうが、これがいまの時代だと新鮮に映るから不思議だ。

主人公のフローレンスは、19年前に戦争で最愛の夫を亡くした女性で、彼と開くことが夢だった書店を、イギリスの海岸沿いの町で始める。その建物は、もう15年以上も打ち棄てられていたもので、書店の名前は「ザ・オールドハウス・ブックショップ」。しかし、かねてからその土地と建物を狙っていた地元の有力者夫人が、ことごとく彼女に嫌がらせをする。保守的な町の人々も、町で1軒の書店を始めた彼女に対して、けっして心を許さない。それでもフローレンスは夫の夢を実現するため、「勇気」を持ってそれらの冷たい仕打ちに対処していく。いわば、彼女の闘いの物語でもある。

ウラジミール・ナボコフの「ロリータ」を250冊仕入れて書店の店頭に並べたり、40年以上自宅にひき籠っている読書好きの老紳士と交流したり、彼女の勇気ある行動は、やがて有力者夫人の謀の標的となっていく。前半は、ダイアローグの場面が多く、物語はそれほど流れてはいかないのだが、終盤近くになって、立て続けにサプライズな出来事が起こる。そして、きわめつけは、それまで誰であるか明かされなかったナレーションの主が名乗りをあげると、物語への見方ががらりと変わる。最近では「未来を乗り換えた男」でも使われた手法だ。これが得も言われぬ不思議な感動を呼び起こす。なので、最後まで気を抜かず観賞のこと。主人公のフローレンス役を「メリー・ポピンズ リターンズ」のエミリー・モーティマーが演じているが、誰もが彼女を応援したくなるくらい、その健気な女性になりきった演技には引き込まれる。
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