オリカ

楽園のオリカのレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
4.0
試写会にて鑑賞しました。実在する事件がベースになっているだけあって、この作品を観て 単純に「面白かった」というようなことは言えないですね…。とても重たかった…。

本作は実話を元にした吉田修一の短編集「犯罪小説集」より「青田Y字路」「万屋善次郎」、この2つの作品を組み合わせた内容になります。
事前に予習する必要はないと思いますが、知っていても映画の評価を下げることはないので より深く作品を観たい人は予習してから鑑賞してもいいかもしれません。
(事件自体が割と有名な事件なので 予習しなくても「あの事件のことかな?」と気付く人もいるかも…)

青田Y字路では 容疑者として疑われる中村豪士と、被害者と直前まで一緒にいた湯川紡、村おこし事業をめぐる誤解やトラブルにより 徐々に追い詰められていく田中善次郎。
本来なら関わることがないであろう人が、自然に少しずつ繋がっていく。

「青田Y字路」「万屋善次郎」に共通しているのは閉鎖的な環境と人の醜さ…。
観ていて本当にしんどいのですが、これがフィクションではなく 現実なんだ…と思うと更に絶望します。
自分とは全く関係のない話でもなく、もしかしたら自分や身近な人が同じ状況になるかもしれない…。
「楽園」ってどこにあるんだろう…と考えてしまう作品だったと思います。



—— 以下、ネタバレです ——



まず、冒頭からいきなり 見るに耐え難い暴力シーンで少し怯みました。綺麗な田園風景のオープニングを観たあとだったので、心の準備が出来ていなかった…。

犯人として疑われてしまう中村豪士を演じる綾野剛さん、本当にすごいです…。気が弱くてほぼ話すこともないのに、どんな人なのかがとてもよくわかる。母親の言う通り 大人しくて優しいんだろうな…と。
(佐藤浩市さんと杉咲花さんの演技も素晴らしかったです)

限界集落がどういった場所なのか。実際に住んだことがないので断言はできないし、現在 そこで幸せに暮らしている人もいるんだろうけれど、正直 私は暮らせないな…と感じてしまった。
あんなに美しい自然の中にいるのに、とても視野が狭くて 閉鎖的で。
よそ者を受け入れようとせず 排除する思考なども とても嫌いでした。
そりゃ若い人だけでなく 身内でさえも寄り付かなくなるでしょうね。

特に酷いと思ったのは、被害者の祖父である藤木五郎が 被害者と直前まで一緒にいた紡に対して
「どうして お前だけ生きてるんだ!」と怒鳴るシーンがあって、それは大人として言ってはいけない言葉ではないのか、と。
自分の孫が居なくなってしまったことは とても辛い出来事だったとは思うけれど 八つ当たりするのは 酷すぎる。
ただでさえ「なぜ自分だけが生き残ってしまったのか」と心に傷を背負って生きているのに…。

あと、私が動物大好き人間なので 犬に対しての仕打ちがあまりに辛かった…。檻の中に閉じ込めて 散歩もできない状態になってしまって。
そもそも善次郎は村のために 何でも屋さんのように色々と頑張っていたのに、単に役所に村おこしの予算を直接交渉をしたというだけで 村八分になってしまって 意味がわからなすぎる。
誰か(偉い人)の顔を立てるというのは わからなくもないけど、
だからといってそんなに怒りますかって話です。
一々機嫌をとらないといけないなんて、まるで赤ちゃんと同じ…
(赤ちゃんは可愛いからいいけど…)

そんな感じで 終始観ていてイライラすることが多かった。
豪士は常に母親と一緒じゃないと何も出来ない感じだったので 自立して村を出ることは難しかっただろうし、
執着心から どうしても村から離れることができなかった善次郎、
村を出て都会で暮らすようになった紡も 常に事件のことを思い出して、心が解放されることはなかった(村を出ても出なくても同じ状態ですね…)。

紡が「誰も知らない場所に行ってみたい?」というようなことを豪士に質問した時に、
豪士は「どこに行っても同じ」と答えている。
どこに行っても酷い仕打ちを受けていた豪士からすれば、人がいる場所はどこも辛くて厳しかっただろうな…。

楽園は、美しくて綺麗な自然と水があって…というものではなくて 心が自由になれる場所だろうな、と個人的に思う。
都会でも 田舎でも、悪意がある人間がいる場所は楽園ではない。
普段は良い人でも 集団や組織に加わると 自己保身から強い人間に同調せざるおえなくなったりするし。
そう考えると、この世には楽園など存在しないことになる。
なので、楽園というのは あの世 なのかもしれない…

豪士と善次郎はこの世に絶望して 自ら命を絶ったけれど
紡だけは色んな辛さや十字架を背負いつつ 生きている。
紡に想いを寄せる広呂が、酔っ払いながら
「紡はこれから 楽園を作っていけよ」
というようなことを言うシーンがある。
映画の終盤のシーンだから というのもあるけど、
楽園はどこかに存在するものではなくて、
自分で作るしかない…というメッセージを感じた。
そのためには生き抜かなくてはいけないのだ、と。
紡の強い眼差しが印象的でした。

ラストの感じからすると、結局 犯人は豪士だった…ということなので、その時の豪士の心情とか もう少し知りたかったかな…。
良い映画が観れて良かったです。
オリカ

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