nana

楽園のnanaのレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
3.8
なんのために生まれてきて
なんのために死んでいくのか

母さんは、ここに来るとき楽園に行くと言った

どこに行っても同じ。
何も変わらない。


理不尽
悲しすぎる
やりきれない
怒りと絶望と恐怖。

地方都市の山間の村。
青田のY字路で少女が行方不明になる。
少女は見つからず12年が経過する。

夏祭りの夜、また別の少女が行方不明に。
村人達は、幼少期に難民で外国から来た内向的な豪士を疑う。
集団で自宅のドアをぶち破り、土足で部屋を荒らし、豪士を追う。
子供の頃から疎外され、母子で酷い目にあっていた豪士は集団に追い詰められ、恐怖から灯油をかぶり村人達の前で自らの命を断つ。
すぐに少女は無事に発見され、少女の帰還に喜ぶ村民達。

豪士の死には罪悪感を持たない。
疑われる方が悪いといった風情だ。


妻を亡くし、村で養蜂業を営む善次郎。
村民に頼りにされ、とても親切で良い人だ。
ある日、寂れゆく村を活気づけようと町おこしを提案するが、老人達の思惑と噛み合わず村八分にされる。

ゴミを回収されない、
墓に破廉恥な落書き、
可愛がっていた愛犬の外出禁止。

そして妻の遺骨が眠る自宅敷地の木を無理やり伐採され…

この村では村民の「決めごと」と行政が一緒。
善次郎は追い詰められ心身共に疲弊して行く。
村人達の陰湿な村八分はエスカレートし、善次郎の精神は限界を超え、村に惨劇が起こる。

「誰かが罪人になれば丸く収まる。おさめたいんだよ、俺は。」

12年前失踪した少女の祖父(柄本明)の言葉。

ふざけるな
異質な者や、昨日まで善人な、異なる意見をたった一度言っただけの人間を、死なせるまで追い詰め無ければ気が済まないのか?

閉塞した歪んだ人間達が起こす残酷な話。

豪士の無実を信じ、12年前、失踪直前まで少女と一緒にいて、事件を抱えて生きて行く女性を杉咲花が好演している。

元難民の青年豪士役の綾野剛の演技が繊細で、自信の無さ、不安を表現する芝居が素晴らしい。 

善次郎役は佐藤浩市。 
この人のやりきれなさはもう、何とも言えないくらい上手すぎる。


完成度が高く惹き込まれる。

見応えがあり作品のレベルがとても高い。

俳優陣の感情の波動を劇場で感じられて良かった。
nana

nana