JT

Girl/ガールのJTのレビュー・感想・評価

Girl/ガール(2018年製作の映画)
4.4
痛みなどどうでもいいほど切望した
苦しみと葛藤の中で踊り続けた
なりたい自分になるための覚悟に限りはない

2019 . 71 - 『 Girl 』

男性の体で生まれたが心は女性のトランスジェンダーのララはバレリーナになることが夢でバレエ学校に入るのだが他の子とは違う体の変化や周りの反応が彼女の肉体と精神を追い詰める

ララを演じたビクトール・ポルスターの何かを追求するかのような凄まじいバレエの踊りと内面の揺らぎを表す表情の繊細な演技に心を持ってかれます

第二のグザヴィエ・ドランと称されるルーカス・ドン監督による衝撃的な長編デビュー作
冒頭の数分だけで見事な映像の仕上がりに驚く
"ララ..."弟が寝てるララの名前を静かに呟いて起こす描写から始まり、ララは美しい女の子で優しい姉なんだなってすぐに認識できる
そしてそのふたりを後ろから照らす光の映し方も本当に上手くて綺麗で、部屋に差し込む朝日や夜明けの青みがかった月明かり、雲に隠れる太陽の光の変化などでララの心の機微を極々自然に表現していてドン監督はもう既に無視できない存在になっていた

トランスジェンダーを扱った今作はいわゆるLGBTQ作品の括りには入るが思春期の若者が自分らしく生きる"正直"な感情にフォーカスを当てている
ララの父親はトランスジェンダーに理解があり協力的な姿勢だったことがこの映画の重要なポイント
どんなに近い存在でどれだけ理解しているつもりでもララのことを真に理解してはいなかった
むしろ精神を追い詰める要因にすらなっていた
状況はわかっていても状態まではわからない
痛みや苦しみを同じように感じることはできない
理解しきれるはずがなくもはや不可能かもしれない
どちらに非がある訳でもないからこそ苦しく辛い
親と子の距離は近くとも重なるとは限らないのだ
だからララはただ踊り続けた
最初は"バレリーナになりたい"と言う強い意志を持った踊りから後半は"女の子なりたい"と言う訴えに変わりその切望が踊りに現れていた
そしてララはある選択をする
何とも衝撃的な展開で言葉を失った
ララの心と体は一致しない
だが精神と肉体の痛みも一致しない
肉体より精神のほうがどこまでも痛い
夢のため痛みを厭わないその覚悟に打ちのめされた
その選択からエンディングへの素晴らしい流れ
ブラックアウトして最後の文字が出て涙が落ちた
ララは今を生きて戦う強い若者の象徴だ

今作のような素晴らしい作品に出会うために映画を観てるんだなと久しぶりに感じた作品でした
JT

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