けー

グリーンブックのけーのネタバレレビュー・内容・結末

グリーンブック(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

とっても面白かった!

ピアニスト、ドクター・シャーリーとその運転手トニー・リップの友情物語。

想像以上に可愛く楽しく、いっぱい笑って笑って最後はクリスマス映画ならではの気持ちの良い余韻に浸ることができた。


見る前はこの映画を自分がどう感じるのかちょっと怖くもあった。
というのも色々と人種差別問題絡みでどうも叩かれているっぽいことは認識していたからだ。

だから見終わってから、「これの何がダメだったんだろう????」と不思議に感じた。

思いついたとしても、せいぜい南部のツアーがあの程度のトラブルだけでは済まなかったんじゃないかな???ということぐらいで。

「グリーンブック」は1962年の話として設定されているので、公民権法が制定されたのが1964年、セルマの行進が1965年と考えれば、もっと差別絡みのトラブルに見舞われいたとしても不思議はない。

クインシー・ジョーンズがツアーで黒人が泊まれるホテルがなくて遺体安置所でねろと言われたということを体験談として話しているのだから、ツアーの先々にきちんと黒人専用宿泊施設があったかどうか疑問なところだ。

シドニー・ポワチエの「夜の大捜査線」の撮影の時も白人と黒人が一緒に泊まれるホテルを探すのに苦労したというのだから、おそらく映画で描かれている以上に過酷なツアーだっただろうと思う。

「グリーンブック」につけられたクレームというのが、ドクター・シャーリー側の親族のクレームで、それによると彼らは友人同士でもなんでもなかったということなのだが、まぁそこは当人同士でなければわからないことだろう。

ツアー中は文字通りトニーに半ば命を預けているようなものだっただろうし、ドクター・シャーリーのサイドにつくことで、いく先々でトニーへの当たりもキツくなったことも疑いない。

トニー自身当初黒人を蔑視していたわけだから、ドクター・シャーリーが彼とともに南部のツアーを回っていいと感じたというのは2人の間に何らかの信頼関係、絆が生まれていなければとても考えにくいし、当時のそれは今のそれとは比較にならないぐらい希少で貴重なことだったと思うので、この映画で描かれていたことが全くのデタラメだったというクレームは、ツアーの間、トニーの他にもドクター・シャーリーの身の回りの世話をしたり安全確保をする人がいたというのでもない限りは成り立たないのではないかなと。

クラッシックを勉強し、一流のスキルを持っていても黒人であるが故にクラッシック界には受け入れられない。

似たようなことをクインシー・ジョーンズのドキュメンタリーで見た記憶があって、確か黒人は交響曲を書くことも許されなかったとか。

どれほど技能に優れ才能に恵まれていようがアメリカでは黒人はクラッシックで身を立てることはできない。 人種に関係なくクラッシック音楽をやる人間にとって大衆音楽に流れることは自分にとっては「妥協」と感じる人も多そうだという印象がある(←アマプラのオリジナルドラマでクラッシック交響楽団を舞台にした「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」で得た知識に過ぎませんが😅)

クラッシックを学んだからにはクラッシクで勝負したいという思いは間違いなくあるだろうし、それが実力で判断されるのではなく肌の色で振り分けられてしまうのだとすれば、なおさら悔しいだろう。

最後のコンサートの場所でトニーがドクター・シャーリー側について行動して見せたことは、ドクター・シャーリーにとって本当にかけがえのない貴重な瞬間だったのだろうなと思う。

そこで初めてドクター・シャーリーは素顔の自分をトニーに見せる。

音楽をひたすら愛する、いわば音楽バカの自分。最高のテクニックを持ち、どんな音楽だってやりこなせる。

白人社会に受け入れられるためには一つのミスも許されない。脅威に感じられないよう白人らしく立ち振る舞い、本来の自分をひたすらかくし続ける。

しかし、トニーの前ではもうその必要はない。セクシャリティを含めて。

またトニーもドクター・シャーリーと関わりあうことで自分の中のナイーブな部分を恥じなくなった。

全編を貫く手紙のエピソードがすごく良かったと思う。

自分を晒したとき、ドクター・シャーリーが受けとめ、認めてくれたことは、トニーにとって大きな自信になっただろうと思う。

 自尊心が生まれ、しゃんとした気持ちになれたというかあの瞬間、自分を誇らしく思えたと思うのだ。手紙のことだけでなく、ドクター・シャーリーの心からの信頼を得たことも。

 ドクター・シャーリーがトニーのために豪雪の中車を走らせるのもとても素敵だと感じた。

 生活費を棒に振ってまで自分のサイドについてくれたトニーのために。

 トニーを喜ばせたいと心から思ったのだと思う。

これを二人の間に生まれた友情と言わずしてなんと言おう。



それにしてもニッコリ笑顔で歓迎しながら、楽屋を物置に用意したり、レストランへの入店を断ったり、白人が使用するトイレに入ることは許さなかったり、というのはどういう感覚なのか。「あの夜、マイアミ」や「栄光のランナー/1936ベルリン」でもあってゾッとしたけれども理解に苦しむ。

ちなみにクインシー・ジョーンズは50年代に直接ドクター・シャーリーと交流があってこの映画で彼のことがフューチャーされてとても嬉しいという。当時、ドライバーとだけでツアーをすることは想像を絶する大変さだっただろうし、この物語を語ってくれたトニーに感謝したいと話している。


ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリはとっても相性がよかったらしくすっかり意気投合。ほとんどのシーンが車の中で二人の男が会話するだけの映画。映画として成り立つのかどうか不安もあったそうだけれども、二人のケミストリーが本物だったからこそ、トニーとドクター・シャーリーの間のデリケートな関係性の変化もうまく汲み取れたんじゃないかと思う。
けー

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