真田ピロシキ

華氏 119の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
3.9
トランプにはつくづくウンザリだ。しかし最近の失態と支持率を考えれば数ヶ月後には消えてくれるだろう。そんな安心を補強してくれる映画を期待していた。如何にトランプがクソ野郎であるかをプロパガンダしてくれるものかと。確かに最初の内はトランプ及び取り巻きどもの最低加減を描き、反トランプには自分達の正しさを認識させ無党派層が自分たちの側に転ぶような期待を抱ける。

雲行きが変わってくるのはミシガン州フリントを取り上げた辺りから。極めてトランプ的な実業家知事が利益追及のためにやった水質汚染は「ほら見ろ。共和党の右翼どもはクソだろ」という結論を導こうとしているかに見える。しかし時系列をいじって後半に再び脚光を浴びた時に全く違った絵を見せる。当時の大統領オバマが訪れ市の犯罪を糾してくれるのだろうと期待された中オバマが行ったのは汚染された水を飲むフリをするだけのパフォーマンス。これに多くの人達は失望。結果次の選挙で棄権者が増えてトランプ勝利の一因になったと見る。この少し前に民主党が急進的なサンダースではなくヒラリーを無理矢理推した事が描かれてたのとオバマの中途半端さは同じ意味を持つように感じる。マイケル・ムーアが言いたいのはこういう事なんだと思うよ。「極右相手に中道左派なんて生っちょろい事やってるから多数派のはずなのに負けるんだ」と。それで今回の選挙もブティジェッジでもサンダースでもなく結局バイデンに落ち着いたのは同様の事が起きるのではと不安になった。

絶望を感じる映画ではあるが希望はある。いや、希望を持つ事は否定されている。大事なのは行動する事。教員のストライキや銃乱射事件に対するティーンエイジャーがその例として取り上げられる。しかし全体的には悲観的でナチス台頭と今の状況を対比して最早予断を許さない状況である事を物語る。最後の方で「黒人の命は大事だ」というプラカードを掲げた映像があって、そのすぐ後に「白人の命も大事だ」という人達が出てくるのはあまりに2020年の現在を先取りしている。ムーアの予測は当たりそうで恐ろしい。