Hondaカット

ジョーカーのHondaカットのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.4

88点。ベネチアの金獅子賞。アメコミヒーローものの、いち悪役の誕生譚でありながら、現代社会(特にアメリカ)の貧富格差の問題にしか見えないリアルテイスト。善悪の見方を越えて、社会のシステム自体を糾弾する(しているようにみえる)作りは、公開から北米では政府や映画会社の声明が出たり、軍まで動かしている。

まずは「バットマンのあのジョーカーが」という前提での面白さだとは思う。後にどうなっていくかが分かるからこそグッとくるというか。それを全く知らない観客にとっては少し中途半端なお話にみえるかもしれない。個人的には、ジョーカー、とりたて『ダークナイト』におけるヒース・レジャー版のあのカリスマ性や、神秘性が、同一の存在じゃないというエクスキューズがあるにせよ、薄まってしまった残念さはあった。

演技巧者 ホアキン・フェニックスは確実に集大成といえるほど素晴らしい演技。丁寧に積み上げていった感情、それをピエロメイクやトゥレット症候群の見た目の中で行うという、テーマ的にも本質に近い芝居はアカデミー主演男優賞ノミネートは確実だと思う。

また、撮影のトーンも素晴らしい。光と影の表現、鏡の使い方、階段(彼の苦境)やダンス(彼の心の解放?もしくは何かに踊らされてる?)などのモチーフも全て作品の本質を効果的に表現していた。階段の踊り場でのステップ、ステージに出る直前の背中など、心に残るショットがいくつもある。また表情の撮り方ひとつとってもちゃんと意味がある構図と編集の尺の長さ。音楽の選曲、効果音のホラー映画ばりの使い方。トッド・フィリップス監督、コメディ映画畑じゃないの!?というくらい映画的技法を押さえてる様に唸ってしまった。

たしかに、社会的弱者の人間が投影してしまえるような、危うい【幅】を持っていると思う。ジョーカー自身が劇中で溜めていく澱のような感情は、現実の色々な立場の人間の鬱憤にも思えるような曖昧さがある。それはきっと制作者の狙いをこえて、役者の芝居や、その世界観の描き込みなど、【映画】として完成した時から滲み出てしまう奇跡的なものかもしれない。改めて映画の怖さを感じた作品でもあった。

そして、全ての事情を超越し、最後の数分は鳥肌が立った。
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