あんびー

ジョーカーのあんびーのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.1
アメコミ知識ほとんど無い上での感想。

様々な見解が出来るし意図的なメッセージも無いのかもしれない。事実、ただのバットマンシリーズの1つだと思って観に行ったら皆何かを考えるきっかけになったはず。

自分は「共感性の欠如」がテーマだと思った。
精神に病を患う者にとって最も恐ろしいのは世間の目、正常でいろという声。本当にその通りで、意思に反して笑いが止まらなくなるという症状(統合失調症の一種?)を持つアーサーが周りに奇異の目で見られ、誤解される姿は見ていて辛い。同じような経験があるから何となくわかるけど、心の病の症状や苦悩は正常な人達に理解されるのは難しく、彼らが病気であるということすら受け入れられず異常と見なされ、笑いものにされることがある。
そういった自分とは違うものを否定し、他人の気持ちを考えず自分本位で平気で人を虐めるような、共感することができない姿が誰にでもあるんじゃないか。直接手を下さず言葉一つで他人を簡単に攻撃できたり、やり場のない不満を発散するために誰かを攻撃せずにいられない人が蔓延る今の時代だからこそ、アーサーがただの狂ったおっさんに見えるか或いは世間から理不尽に攻撃される者の心境に共感してしまうか、この映画は人によって印象が大きく分かれると思う。

ただ、そんなアーサーが次第に悪事に手を染めることに抵抗がなくなりジョーカーとなっていく姿を見せられる内に、アーサーが持っていた異常性が次第に垣間見れ、心の病気を持ちながら笑うしかなった人がいつのまにか不気味に笑うピエロに変貌している。その過程に違和感が無いからしっかりと恐怖を感じられる。

さらに、暗い展開が続くがそれだけで終わらないのがこの作品の凄い所。自分の世界に浸りながら1人踊る姿、情けなさとコミカルさが共存した何とも言えない走り方、悲劇から次第に喜劇となっていくアーサーの世界観が不気味さと美しさを兼ね備えた独特の余韻をもたらしてくれる。特にあのラストは、これが独立した作品だと監督が公言していたことから、テーマパークとなりつつあるアメコミ映画に一石を投じるものなのかもしれない。

アーサーに必要なのは苦悩を受け入れ包み込んでくれる優しさだけだったのか。誰もが優しくなれば、弱さを武器に悲劇の人生を喜劇に変える力を持つことが出来る世界になるのかは分からない。
それでも、自分は自分の喜劇を精一杯生きようと思った。
あんびー

あんびー