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ジョーカーのreliableFilmManのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.5
虐待、差別、資本主義社会の限界、格差、資本家と労働者、暴力が支配する世界、侮蔑、解放、正義とは

本作は、ネガティブな主張をメインにしたものである。このように感じるのは、私が愛ある幼少期を経て大人となり現代社会を受け入れて生活している、所謂一般人だからだ。
「世界は平等でも公平でもない」と感じた。
資本家が格差について一石を投じる作品を制作している構図は滑稽でもある。


以下、感想と考察

○アーサーがJokerとなった要因について
Jokerを生んだ一番の要因は「幼少期の虐待」だと思う。
生まれの親から不必要として捨てられて、精神疾患である(とされた)親に育てられたために歪んだ人格が根底にある。

ピエロという職を侮蔑する人の目、腫れ物を扱うかのような同僚の対応、福祉サービスの停止、偶然手に入る銃、自分を小馬鹿にするTVShow、精神病院の母のカルテ、犯罪者として注目を得たこと・・・
これら様々な要因が積もっていたところで、最後に発覚する母の裏切り。

唯一信じていたであろう母からの裏切りは、アーサーの心の細い糸を切ってしまった。TVShowの出演時に「失うものは何もない」と述べている。ここでJokerが誕生した。

○作中のJoker(アーサー)の印象的なセリフについて
①I just hope my death makes more cents than my life.
声に出されることはないが、作中に数回出てくるこの一文。アーサーの心の闇を描いている。特に硬貨の中でも一番価値の低い「セント」であることから、自身の人生の価値は最低であると感じていることが伺える。

②The worst part of having a mental illness is people expect you to behave as if you don’t.
コメディハウスでJokerと他の人々の笑うポイントが異なるシーンの後に記載された一文。普通の人間になりたいけどなれない葛藤が如実に表現されている。

③Is it just me, or is it getting crazier out there?
序盤のSocial Workerとのやり取り。アーサーが、自身の人生の鬱屈感は自分がおかしいからなのか、世の中がおかしいからなのか葛藤している様が描かれている。
一人の人間として立ち直れる可能性がある最後のシーンなのではないか、そう思うとただひたすらに悲しい。

○小人症の同僚を逃した理由について
小人症の彼もまた、普通の人とは異なるため差別の対象であったことから、Jokerには普段から優しく接していたのだと思われる。また、Joker自身が普通の人のフリをしていた時、小人症の同僚が馬鹿にされていても、同じ様に笑っていた(フリをしていた)。この時のことへの罪悪感もあると思う。

「君だけは優しくしてくれた」
Jokerのその言葉から、彼は優しい心を持ち合わせていたのではと感じられる。

○暴力が暴力を生む
終盤、トーマス・ウェイン(父疑惑のある人物)と妻が射殺され、その息子が路地に置き去りにされるシーンがある。この子供は養子として出されることになる可能性があることからアーサーと同じ末路を辿ることとなるかもしれない。

○冒頭と最後のシーンについて
冒頭、ゴッサムの行政サービスが低下してゴミが溢れているというニュースが永遠に流れる中、Jokerが一言も発せずに涙を流すシーンがある。
ここではまだ彼自身が一般人にならないといけないが満足な結果を得られず、自身をゴミの様だと考えており、人生を「悲劇」と捉えていたことを表している。

最後のシーンでそれは「喜劇」に変わる。

Social Workerを殺め、進んでいく先は眩しいほどに晴々としている。そこで刑務官に追われて右往左往する姿はまるで「チャップリン」の様。「The End」の書体やBGMもポップなものとなっている。
彼が彼なりの世界観、つまり「正義」を確立したことを表現している。
この「正義観」については「Dark Night」で描かれていたと思う。


結論、Jokerは社会が作り上げた悲しいモンスター