GreenT

ジョーン・ジェット/バッド・レピュテーションのGreenTのレビュー・感想・評価

2.5
「女はエレキギターを弾かない」とか言われている時代に「ロックを演りたい」を貫き通し、現在の若者にも尊敬されているミュージシャンということで、語れる話はたくさんあるハズなのですが、観た後ぜーんぜん「ああ〜、こんな人だったんだ!」と親近感を覚えない。

ジョーン・ジェットはザ・ランナウェイズというオール・ガール・バンドを結成して、特に日本ではすげー人気だったし、80sには "I Love Rock 'n' Roll" で一斉を風靡した女性ロッカーの先駆けだった人。

小さい時の話はそれなりに良くて、「自分の好きに生きなさい」と言ってくれていた両親は「ギターを弾きたい」と言ったらクリスマスに買ってくれて、どうやって弾くのかも分からないのにただ同じ音を延々と鳴らし続けて両親をイラつかせた、なんてエピソードは「こういう人をミュージシャンって言うんだよな」と思わせるし、15歳くらいでバンドやってた時の写真とか、すっごい可愛らしくて、クール・ビューティだったジョーン・ジェットが子供っぽくて微笑ましかった。

ランナウェイズは今観てもすげーカッコ良くて、ライブのシーンとかイメージがすごい良い。

だけど当時「女性アーティストの曲は一時間に一回以上かけない」ってのが、ラジオ局の当たり前のルールだったってのに驚いた。そんな時代もあったんだなあ。

この、「当時どういう時代だったか」を描くのがすごい下手で、途中で何を見せられているんだか分からなくなる。「なんの話?」みたいな。

なんつの、「あ、こっからは当時の背景の話なんだな」ってスムースに繋がっていかないし、あと、70年代とかって見せられると「うわーすげー!!」って当時の熱気が伝わってきてワクワクするもんだけど、この映画からはそういうフィーリングが全く感じられない。

大ヒットした "I Love Rock 'n' Roll" はカバー曲で、80sの成功の裏にはケニー・ラグナというプロデューサー/共同作曲家がいたってのは始めて知った。この人とは今でも一緒に仕事をしていて、もう離れられない大親友のようだったんだが・・・。

ジョーン・ジェットとの関係はプラトニックなのかな?ジョーン・ジェットってレズビアンだよね?と、ドキュメンタリーを観ているのに、そういう謎がどんどん募っていく。

彼女の恋愛関係は全く微塵も出てこない。バンドを演ること、演奏することが一番で、音楽が恋人、だからプライベートはまあ、「犠牲にしてきた」みたいなこと言ってたけど、まーったく一度もパートナーがいなかったなんて思えない。

プライベートは謎のままにしておきたい、って気持ちは分かるけど、じゃあドキュメンタリー作るなよって思う。なんでもかんでも赤裸々に語れ、とは言わないけど、ある程度「ああ、こんな人なんだ〜」って親近感が沸かなければ、こういうの観る意味がない。

ブラックハーツのバンドのメンバーとの交流さえ描かれていない。そういうところに人間性を感じるものなのに。

90年代にビキニ・キルなんかの「ライオット・ガールズ」ムーブメントを後押ししたのがジョーン・ジェットってのは知らなかった。この頃のガールズ・パンクバンドは、ランナウェイズが70年代にやろうとしていたことをやっていると共感したジョーンが、自分のレーベルでこういったガールズ・パンクバンドをデビューさせたり共演したり、色々関わってたらしい。

やっぱ自分のやりたいことがハッキリ分かっている人は、世代が違う人ともそれを通して繋がれるんだなあ、とそこはいいなと思った。「私は大物なのよ」って若い世代を見下すんじゃなくて、共通点を見つけてコラボレーションするなんて、誠実な人柄が見える。

なんだけど、これがだんだんとフェミニズム・LGBTQのアクティビズムに関わっているような感じになってきて、いや〜な予感がしてきた。

ジョニデ名誉毀損裁判でアンバー・ハードのことを知れば知るほど、この人にとってはフェミニズム・Me, too・LGBTQの活動は「今の最先端」「ヒップ」だからやっている、自分の都合のいいナラティヴを語るツールとして使っているだけで、本当に女性やゲイのことを考えているわけではないのが分かって憤慨していたんだけど、それは彼女だけじゃなくて、ハリウッド全体がそういう感じだなあって思い始めていたので、「え、ジョーン・ジェットもその一派なの?」って思ってちょっと嫌な気持ちになった。

ジョーン・ジェットは、レイプされ殺されたパンクバンドの女性ボーカリストのバンドと共演して女性に対する暴力へのアウェアネスを高めたり、トランスジェンダーで女性になったミュージシャンと共演したりと、「活動を利用している」というより、パーソナルな気持ちでやってる感じはしたんだけど、一緒に活動しているのがマイリー・サイラスってのがなあ。

これ観た後ウィキでリサーチしていたら、あるLGBTQのフィルム・フェスティバルは、ジョーン・ジェットがカミング・アウトしていないからこの映画を上映しないって言ってきたんだって。

やっぱりね、って思った。フェミニズム/LGBTQの「アクティビスト」ってさ、「こうこうこういう人じゃないと、私達の仲間だって認めないわ」みたいなところあるよね。「インクルーシブ」とか言いながら。インクルーシブってのは「あなた達の輪の中に私達を入れないとは何事なの?!だけど私達の輪の中にはあなた達は入らない」って感じだもんね。こっちはその「輪」を取っ払おうよ、って思っているのに。

で、ジョーン・ジェットみたいな、セクシャリティをプライベートにしておきたい人を認めない、とかさ。

まあジョーン・ジェットの方も、さっき言ったように、プライベート晒したくないならドキュメンタリー作るなよってか、そこの部分だけじゃなくて、映画全体として見せ方が全く上手くなくて、iMDb でも「ジョーン・ジェットのような興味深い人間をここまで退屈に描けるとは」って言われてた。

最後はジョーン・ジェットがようやっと「ロックの殿堂」に入れられた授賞式?で終わるんだけど、そんときにスピーチしたのがマイリー・サイラスってのにがっかりした。また内容が「ジョーンとセックスしたいと思ってホテルの部屋に行ったら、ケニー・ラグナがベッドに横たわっていた」とか、失笑してしまうようなスピーチで、誰かもっとまともな人いなかったの?って悲しくなった。
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