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ボーはおそれているのGreenTのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.0
“Nightmerish” って表現が一番当てはまる映画だなと思いました。

ボー(ホアキン・フィーニックス)は、オドオドした中年男性。セラピストにかかっていて、都心の殺伐としたエリアの安アパートで一人暮らししている。里帰りを間近に控え、母親から楽しみにしていると電話をもらうが、ボーは乗り気じゃない様子。

明日は帰郷の飛行機に乗る日!って日に、様々な事件が起こり、ボーは帰郷出来ないのだが、母親はボーが帰って来たくなくて言い訳しているとしか捉えてくれない。ここからボーの悪夢の「帰郷の旅」が始まる・・・。

オープニング、ボーの住む地域の荒れ具合が冗談になってなくて、そこで私は震え上がりました。ドラッグ中毒者やホームレス、犯罪者であふれるストリートにボーのアパートはあるのですが、家に帰るまでにドラッグ中毒者、ホームレス、犯罪者をかわすために、全速力で走って帰る。

これ多分笑えるシーンなんだろうけど、私はガチで怖かったです。YoutubeやTiktokで見れるけど、この状況、今やアメリカの都市部では誇張じゃないんですよ!LA、ニューヨーク、サンフランシスコ、フィラデルフィア、ポートランド・・・。ボーのような安アパートじゃなく、結構いいアパートに住んでいる人も、外はホームレスやヤク中患者で溢れていて、本当に走って帰ってるんじゃないかと思う。

ここは本当に怖くて掴まれたけど、この後話はどんどん奇っ怪になっていく。しかもランタイム179分!!!ちょうど真ん中の「ボーの夢」、アニメーションで語られる部分は、語りが心地良くて爆睡してしまった。一番大事なシーンのようなのに(笑)。

今朝そこだけ観直しましたが(笑)。

ウィキペディアでは “surrealist tragicomedy” と表現されていましたが、私は笑えるところはなくて、ずーっと奇っ怪な異様な感じを受けました。それと、たまたまデヴィッド・リンチの作品を見直していたところだったので、リンチにすっごい似てるな!影響受けているな!と思いながら観ていた。音楽というかBGM?音響?すっごいリンチっぽい。

作風としてはアートハウス風、訳わかんない体で、『マルホランド・ドライブ』と比較している人もいたけど、私としては『インランド・エンパイア』っぽいと思った。かなり自己陶酔的な映画。

ウィキによるとアリ・アリスター監督はこの映画を「ナイトメア・コメディ」「ユダヤ人ヴァージョンの『ロード・オブ・ザ・リングス』:ただし実家へ帰るだけ」「10歳の男の子に抗うつ剤を飲ませてスーパーマーケットに送ったらこうなる」などと描写しているらしい。

さらに監督は、この映画は『ヘレディタリー』よりも前に作りたかったんだけど、当時は資金も創作の自由もなくてできなかったと言ってて、今回ヒット作を連発したことでその自由が与えられた模様。

この話を聞いてポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』を思い出した。創作アイデアに溢れる若い監督に金と自由を与えるとこういう映画を作る!という(笑)。でも成功した監督は必ずこういう作品作るよね。

内容は明らかに「母親に支配される男の子のナイトメア」だと思うんだけど、監督本人がユダヤ人であることから、ユダヤ人家庭のお母さんの影響力の強さと、ユダヤ教の教えが性的に男の子を歪めていく、ってメッセージを感じた。

ボーが10歳くらいのとき?に恋に落ちるエレイン・・・。成長したエレインを演じるのがパーカー・ポージーなんだけど、このエレインってキャラがすっごい図々しいというか、Bossy で、ユダヤ人の女性ってすっごい押しが強くて、お母さんから逃れられてもガールフレンドや奥さんがお母さんみたいになっちゃう!って恐怖なのかなあと思った。

お母さんは、ボーのお父さんはセックスして射精した時に心臓発作を起こして死んだって言うんだけど、お父さんは生きていて、イメージが「巨大なペニス」みたいなのも、「男はセックスに囚われる低俗なもの」って観念を埋め込まれるってことなのかな?

ペニスといえば、ボーの金◯マはすっごいデカい、って描写が何度かある。ってことは本当はボーはすごいマスキュリンな人なんだけど、母親によって「タマを抜かれた」存在なのか?

最後の「裁判」のシーンは母親のガスライティングが勝ち、男の子は一生それから逃れられないってことなのかな?

アリ・アリスターはDVDのインタビューでホアキン・フィーニックスのことすっごい褒めてたけど、私はこの人そんなに感心しないなあ。なんか自己陶酔的で、こちら側に訴えてこない。

ボーのキャラ自体も色々悩んでいるだろうけど、話が複雑な割には一元的なキャラであんまり感情移入しない。

ミステリーも、デヴィッド・リンチ作品だと「なんだなんだ」と訳解らない割に興味が湧くんだけど、こちらはちょっとヤラセっぽい感じがする。なんつの、リンチの話は、リンチ自身には明確に筋が通ってるんだけど、必ずしも観客には伝わらない表現体型、って納得行くんだけど、この作品はそういう作品のように作りましたって感じ?

アリ・アリスターがやたらとこの作品をコメディ扱いしているのもちょっと「アーティストとして奢ってる」って感じがする。私は笑えるところが一箇所くらいしかなかったんだけど「凡人には笑どころが解らないでしょ?」って上から目線な感じが(笑)。

まあでも本人が言っているとおり、そういう映画が作りたくて、やっとそのリバティも資金も出来て作れたんだから良かったねって思うけど。それに最近の映画の中では面白い方だったし。リンチ作品みたいに「何度も観て全貌を知りたい!」という情熱は湧かないけど、また観る機会があったら、一回目よりは理解が深まって面白いと思うかも、って映画でした。
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