MasaichiYaguchi

リンドグレーンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

リンドグレーン(2018年製作の映画)
3.8
「長くつの下のピッピ」や「ロッタちゃん」シリーズをはじめとした数々の児童文学の名作を生んだスウェーデンの女流作家アストリッド・リンドグレーンの若い頃を描いた本作からは、彼女の創作の源泉やモチベーションが垣間見えるような気がする。
アストリッドは雄大な自然が広がるスウェーデンのスモーランド地方で生まれ、伸び伸びと育ったが思春期を迎え、教会の土地で農業を営む信仰に厚い両親、その教会の教えや倫理観、保守的な田舎のしきたりに息苦しさを覚える。
只でさえ感受性が強く、自由奔放な彼女は、その文才が認められて地方新聞社で働き始めたことを契機に、今まで抑えていた才能や情熱を解き放つ。
別にアストリッドでなくても、誰でもハイティーンになれば「ここではない、どこか」に憧れを抱き、場合によっては生まれ故郷を飛び出していく。
ただアストリッドの場合は、信仰深い地元に留まることが出来ぬ事情の為に飛び出すことになる。
それは道ならぬ恋で子を宿した為で、このことで彼女の波瀾万丈、艱難辛苦の歩みが始まる。
この作品を観て、アストリッドのように窮地に陥った女性を救う“受け皿”が当時あったことに驚くと共に、改めて福祉の北欧だなと感じてしまった。
何でも先鞭をつければ、周囲から反対や反発があり、それ相応の覚悟と痛みが伴ってくる。
アストリッドは挫けそうになりながら、のたうち回りながら、様々な困難に立ち向かっていく。
こういう事態に際して如何に男は情けなく頼りなく、逆に女性は「母は強し」と言われるようにめげない。
この作品はペアニル・フィシャー・クリステン監督が女性らしい視点で、自由や自分らしさを渇望した少女アストリッドが作家リンドグレーンになっていくのを愛や希望を込めて撮った映画だと思う。