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アド・アストラのkaitoのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
4.7
ラストに関しては様々な解釈があっていいと思います。自己満足なレビューをしますが共感して、この映画に対する評価が変わってくれたらうれしいです。

人を魅了するものとは

「アド・アストラ」ネタバレあり
何かと批判されがちなこの映画だが、自分はこの映画が大好きだった。近すぎず遠すぎない絶妙な距離を感じさせるScience Fictionの世界観、現在進んでいる計画の一つである火星移住。新鮮ではあるけど、信憑性があり、素晴らしい背景が整っていた。月面での、カーチェイスは新鮮だったし興味深かった。ただ、たまにアクション映画のトーンになることがあって、そこが少し残念であった。そのシーンで使われていたBGMもこの映画の世界観にはマッチしていないような気がした。
スペクタクルなSFアクション映画を想像していたら、もちろん肩透かしを食らうに違いない。この映画は「静」が司る正真正銘のScience Fiction映画であった。一方、ドラマ要素である親子愛というものはこの映画から全く感じられない。
むしろドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品『メッセージ』が「言語」に焦点を当てるように、分かりやすくはないものの、この映画もあるものに焦点を当てている哲学的かつ科学的な映画であるように感じる。

その何かとは「未知」である。未知が人を魅了するのだ。

ロイの父(トミー・リー・ジョーンズ)が知的生命体を求めて、宇宙へ旅立つ。仲間が反乱を起こしたとき、皆殺しをしたにもかかわらず、彼の顔には悲壮感だったり慈悲は全く見られない。未知は人を狂気的なものへと変えてしまうというのがこの映画のメッセージであると感じた。彼にとっては知的生命体を探すことが本望であり、それに捕らわれたあまり後戻りのできない選択をしたのだ。未知を定義できるものにする彼の使命感だったり、宇宙空間が感じさせる孤独感は人間を壊す。
それと対照的に描かれるのがロイ(ブラットピット)である。「父が生きているかもしれない」という謎をはっきりさせるべく、宇宙へと旅立つ。
クリフォード→知的生命体
ロイ    →父親
二人とも謎を解明すべく宇宙に旅立つ。
 
 ラストで二人は逆を行く。冒頭でも述べたようにラストシーンは様々な解釈が生まれそうである。
Qなぜ父親は帰らなかったのか―
未知に捕らわれたあまり、心理的に越えてはいけないボーダーを越えてしまったため帰らないのだろうと私は解釈した。に対してブラットピットはボーダーを越えなかった。ゆえに地球へ帰還したのだ。つまり未知が誘った狂気的状態から父は脱却できず、未知という名のブラックホールに飲み込まれたのである。

正直に言って、映画を観て感じたことを100%出し切れてはいない。ただ、この映画は親子の絆だとかそういった言葉で片付けられるほど単純ではない気がする。「未知」を題材に扱う正真正銘のSF映画であった。脱帽。
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