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さがすのkaitoのレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
3.7
さがす(ネタバレあり)

片山慎三監督作品『さがす』は、佐藤二郎が主演を務めるスリラー・サスペンス映画という枠組みだろうか。彼の映画は『岬の兄弟』をコロナ療養期間に鑑賞して、かなりバッド入った記憶がある。それでも良い映画だった印象。今作は「大阪の下町で住む原親子。急遽、父の智が指名手配犯を見つけたと言葉を残し、失踪する。」がざっとしたあらすじ。

結論から言うとシンプルに飽きずに観ることができたし、良作だと感じる。ストレートに映像を映す映画ではなく、主人公の気持ちやストーリーの今後の展開を握るものを隠喩的に表現として表れていることがあり、個人的には好きな要素だった。特に「卓球」「ピンポン球」はこの映画における非常に重要な要素であることは明確かと。細かいシーンから重要なシーンまで、幅広く卓球の要素は出てきている。映画の冒頭、寝床につく智と会話しているシーンでチラッと映る卓球のシール。物語の流れが変わる最初のシーンでこの表現を印象的に入れてる時点で、「卓球」はこの物語における重要な要素となることがわかる。その後は母の死亡シーン・ラストシーンなどで印象的に登場している。

母を殺めるシーンでは、「また一緒に3人で卓球をやろう」などの台詞から、卓球は家族を繋ぐものだと考えられる。しかしそれも自殺幇助後に山内が卓球球を踏み潰すシーンによって、映画全体に儚さをもたらす表現となっている。

そしてエンディングでは、智と楓が卓球のラリーをするシーンで終わる。「迎えにきた」と楓が警察に通報したようなことを仄めかすシーンがあるが、これは冗談でもなく本当に通報したものだと考える。あたかも智はヒーローとして終わるような雰囲気で映画が進んでいたが、それでも実際は自殺幇助という立派な犯罪である。この映画のテーマのひとつであり、実際の問題にもあがる難しい点である。

最近日本人が海外で安楽死を選択し、人生を終えるというニュースを何本か観たことがある。「生きたいと思って生きている人」「周りが強制的に生かそうとしている」の2種類がいると映画では話されていたが、その実情も経験している人にしか分からないことである。この映画は決して自殺幇助を勧める映画ではなく、かといって正義を振り翳している映画でもない。真剣に考えなければならない問題を、真正面から我々に提起している重要な映画である。作るのに勇気がいる作品だとは思ったが、これほどのめり込んでしまうとは…。

作品のテーマ選び・それを視聴者に問いかけ、正解を真っ向から提示しない映画であると思う。故に色々な考え方があり、多角的な視点を持つこともできるように感じた。片山慎三監督は邦画の中で好きな監督になりそう。
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