真田ピロシキ

メランコリックの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
3.5
深夜の銭湯では殺人が行われてた。物騒な文面だ。シリアルキラー系か黒社会ものにしか思えない。しかしこの映画、Amazonのジャンル区分ではコメディと書いてある。どういうことだ。ブラックコメディなのか?

主人公和彦は東大を出ていながら実家暮らしでアルバイトをするモラトリアム青年。ある日、行った銭湯で高校の同級生百合に出会い色々話して彼女が度々通っている銭湯で働く事にするのだがこの辺は甘く感じる。和彦は百合のことを覚えてないので親しくなかったのだろうし、高学歴とは言えろくな仕事も金もないのに同窓会に誘い近づいて来るのは露骨な動機付けとして存在してるようでご都合が過ぎる。これなら百合が銭湯の一味で高学歴を見込んで接触してきた方が自然。まぁそれだと話自体がチープでありますが。

それで銭湯で働き始めた和彦はある夜、殺人の事実を知り口止めとして後始末を手伝わされる。ここからの和彦は面白い。思わぬ高報酬に高い充足感を得て、また特別な仕事をしている自負から満たされる自己肯定感。付き合い始めた百合との関係も良好。そんな和彦だったが自分が入っていない日は同時に銭湯で働き始めた松本が入ってると知り失望。しかも表の銭湯業務は和彦がリーダーで裏の殺しの処理は松本がリーダーと聞かされてあからさまに嫌そう。和彦は大学卒業後、評価に飢えていたのだろうし、東大出だけあって履歴書の字もまともに書けない松本の事は無意識に軽んじていたのだと思う。交錯する感情に真実味を覚えられる。

その後、殺しを担当していた小寺が死んでしまい、元締めのヤクザから実は殺し屋だった松本と共に和彦も「殺しに参加させろ。でなきゃ始末しろ」と言われヤクザの殺害を決意。これ以降の松本との関係がそれまでの一方的な嫉妬とはうって変わり友情になっていって良い。尚のこと良いのは前半部では和彦の動機付けのような存在だった百合をこの局面では安直に危険に晒さず展開した事。十中八九死ぬと思っていた松本があんな存在になるとは思わなかった。この辺をありきたりにしなかったのが本作をユニークたらしめている。この映画は意識も2019年公開に相応しくアップデートされていると感じる。

いくらでも重く出来る素材を用いながら暗さを感じさせない青春ドラマ風に仕上げた本作は確かにコメディと言えるかもしれない。実家での食事シーンも面白くて映画のコメディ性を引き上げている。和彦の東大卒設定はあまり生きてない気がするが、それも今流行りの勉強が出来るだけのブックスマートって奴で車の運転すら出来ない事に意味があるのだろう。特別さを求めてたそんな和彦が最後に選んだ平凡な選択が染みる。