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いい意味で小悪魔のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

いい意味で小悪魔(2018年製作の映画)
5.0
[ある小さなコミュニティにおける"MeToo問題"への一つの解答] 100点(オールタイムベスト)

全く見る気はなかったが知り合いがチケットを余らせているとのことだったので鑑賞。すると、これがホームランを放ってしまった!"いい意味で小悪魔"という題名も最高じゃないか。

高校生のシャルロットは男勝りなメーガンとカタブツのオーブの三人といつも一緒に居る。そんな彼女は付き合っていた彼氏がゲイだったと分かって失恋、気分転換に近くの大きなオモチャ屋でアルバイトを始める。すると、そこは地上の楽園のように美男美女だらけであり、シャルロットは自由気ままなメーガンと生真面目なオーブがドン引きする中、店員のイケメンたちに手を出しまくる。やがて、シャルロットが店の男店員全員に手を出したことが男たちの間で話題になっていることに気が付き、反自由恋愛的な禁欲活動を始める。

少女たち三人が学校やレストランで会話するシーンの構図が空間の奥行きをバッチリ感じさせるものとなっていて非常に印象に残っている。モノクロによる映像も光の扱い方が上手く、特に紙飛行機のシーンは震えた。ただ、少し白色がサチってて輪郭がボヤケたりしていたのは残念だった。多分あれは意図して撮ったものではないだろうから。

シャルロット独りで始めた反自由恋愛的な禁欲活動はやがて男女を分断して、それぞれの一挙手一投足に関心が向かうようになる。男性側は女性陣の一人を落として運動を凍結しようとし、女性陣は頑なに男性陣を拒み続ける。これは完全に昨今の"MeToo"問題と重なるではないか。マクロ視点で男性優位だったオモチャ屋は完全に分断されて冷戦状態に陥ってしまった。しかし、この手の運動にありがちな"言葉"に固執したり(本作品では"依存体質"という言葉を多用していた)、最大多数の最大幸福をそれと知らずに全体の目標として従わない身内を攻撃し始めたりすることで徐々にボロが出始め、シャルロットとメーブが大喧嘩することで運動は崩壊する。このへんの描写も丁寧かつ飽きさせない。

女たち男たちは元の場所に戻っていき、今まで通りの生活が戻ってきた。しかし、決定的に異なるのはそれぞれがそれぞれに敬意を払っていること。勿論ミクロに見れば女性優位のカップルも男性優位のカップルもいるが、全体を見渡してみれば"ある程度"平等になったと結論づけていいと私は思う。真の平等とは互いの存在を認め尊敬することだから。個人的にはラストで全員が誰かと結びつくという展開は微妙だが、続くボリウッドダンスでそんな不満もぶっ飛んでしまった。ラストまで全力疾走だった。素晴らしい!

追記
高校生の恋愛の話だが、大人の存在が感じられない。これが本作品の"天井のない"自由さをアンプしている。最も年齢が上だと想像される妊婦(名前忘れた)が恋愛治外法権としてシャルロットの母親の役割を果たしているのも楽しい要素の一つ。募金の行き先としては誰もが納得する伏線回収なのではないか。

今年のベストには「ブラ物語」と一緒にランクインするだろうな。
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