慣習に抑制されるも静かに波立つ心。不条理も霞がかる程の柔らかな光注ぐ北ベトナムの美観の中で一族の存続、生産という役割の為に身も心も家父長に捧げる女たち。僅か14歳で第三夫人として嫁いだメイの淡々に潜む揺らぎ、俗世離れした生活の内にある生きた感情を鮮烈に捉える。
歴史に根付く伝統という名の不条理を描いた作品ながら、まず飛び込んでくる御伽話の様な秘境世界と緩やかに暮らす人々の所作。目立った諍いもなく寄り添い生きる女たちの姿に特別窮屈な印象もないし共同体として生きている。だからこそ彼女ら個の感情に触れた時の現実感、その切実さが途轍もなく痛い。
ベトナムでは主演女優への誹謗中傷など物議を呼び4日で上映打ち切りになったらしいけど、歴史の恥部を世に曝そうとか告発とはまた違う主旨が伝わるし、今も何処かにある慣習に耐え忍び苦悩の中でそれでも凛と生きる女性らに寄り添う。美しい映像で包む監督の情愛や讃美が存分に溢れる良い映画でした。
まあ台詞も少なめやし正直序盤は美し過ぎる映像の圧倒的ヒーリング効果のせいで何度かウトウトしたw
でも官能的な描写や哀しい物語にも惹きつけられたし観終わってみればなかなか刺激的な体験だったので観てよかった。
