真田ピロシキ

運び屋の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.6
『人生の特等席』が最後の出演作品になったらちょっと嫌だなあと思っていたイーストウッド久しぶりの主演作。当時90歳を目前にしてたイーストウッドさんは「近頃の若い奴はいつも携帯とかインターネットだ」という風に如何にもなうるさいジジイっぷりを強調される。黒人には悪意なく二グロ呼ばわりでメキシコ人にはタコス野郎という風にこの年代の人であれば大体はそうだろうなと思わせる演出。イーストウッド自身が実際にこんな感じのスタンスと何かのインタビューで読んだ気もするけど、この辺には取り繕わない等身大の高齢男性の姿が見て取れた。

それでこのイーストウッド演じるアールは腕の良い昔気質の園芸家なのだけれど、腕だけに頼って商売をアップデートしたりはしなかったのでインターネット通販に駆逐されて廃業してしまう。仕事にばかりかまけて家庭は疎かにしてたせいで金もなければ居場所もない。そんな中これまで無事故無違反な事を買われて運び屋として働き始めるが、そのお金でやるのが孫の結婚式でBARを借りたり火事に遭った退役軍人会の建物の修繕だったりとチヤホヤされる事なのがこの老人の空虚さを物語る。と言っても硬く重苦しいのではなくてユーモアを挟むのが流石の円熟味を感じさせるもので、金が得られないどころか命の危険まで覚悟して失った時間を取り戻す終盤の展開は素直に感動できるものと言えるのではないでしょうか。

ただ実話に着想を得たと言いますがアールの人物像はこんなカッコ良くはなかっただろうなと思う。物怖じせずユーモアを交えて返す姿はワル共にも一目置かれ、美女にもモッテモテってのは映画的な誇張にしても当初示されてた等身大の老人像とは乖離したように見える。その辺の違和感が大好きな『グラン・トリノ』に比べるとやや残念に見えたところ。