よねっきー

アートのお値段のよねっきーのレビュー・感想・評価

アートのお値段(2018年製作の映画)
4.6
毎秒50万ドルずつ値上がりしていく現代アートのオークション。気狂い沙汰のニューヨークを舞台に、アーティストやコレクター、オークショニアにキュレーター、批評家からギャラリストまで、様々な曲者キャストたちが踊り狂う。作る阿呆に買う阿呆。この規模はフィクションじゃ有り得ない。ドキュメンタリーだからこそ扱える「アート」というエキサイティングな怪物。こんなにたくさんの人がアートを作り上げ、こんなに大勢の人がそれを買い求めているのに、面白いことに誰一人として、「アート」とやらの正体をご存知ないのだ。この世界は今がバブル。誰もその泡を割ろうとはしない。

キャラクターがどれも印象的だ。自分の手を使わず、会社のように人を雇って作品を描かせる画家。世間に忘れられ、死んだと思われている高齢アーティスト。作品がより高く売れるよう、企画を進めるオークショニア。直感だけで作品を集め、部屋にもう余地のないコレクター。アートと金の映画なので「美術館はアートの墓場だ」なんて耳を疑う言葉も出てくるけど、誰一人としてアートを馬鹿にすることがない。作る者も、買う者も、売る者も、みんな信念を持ってやっている。「アート」という不定形の概念に対する価値観がぶつかり合う。自分の芸術観が簡単に揺さぶられる。漏れなく全員の思いが心臓に刻み付けられた。漏れなく全員について記したいところだが、文章が長くなりすぎてしまうので1人だけ紹介しようと思う。

ジョージ・コンドという画家を知っているだろうか。俺はこの映画ではじめて知った。バスキアやキース・ヘリングなどと同時期にアートシーンに登場したアーティストだ。ピカソを思わせる作風で、「自分が作るのではなく作品が作られていく」と言いながら絵を描き、「完成したように見える」と言って筆を置き、「これ以上手を加えたら台無しだ」と話す。

バスキアの絵が高額で売れたと聞くと、気の毒そうな顔をして、コンドはこう話す。「彼が生きてたら、そんな値段がついたと思うかい?」

コンドのことを俺が知らなかったのは、彼が死んでなかったからじゃないのか?彼がもし夭折していたら?彼の絵の値段は跳ね上がって、誰しもがバスキアやキースと並べて話すようなアーティストになっていたんじゃないか?たくさんの絵を描くコンドは、一枚ずつの絵の価値が下がると言われるらしい。しかし彼はこう反論する。「誰も『バスキアはもっと少なく描くべきだった』なんて言わないだろう?」

価値と値打ちは違う。全ての値打ちを知ってても、そのいずれの価値も知らないような人間ばかりなんだ。俺は価値が分かる男でありたいよ。
よねっきー

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